中国に東シナ海ガス田「白樺」採掘強行を勢いづかせた鳩菅外交
「尖閣漁船」問題をしのぐ国益が損なわれている

 複数の政府関係者や野党議員によると、日中両国政府が共同開発に合意していた東シナ海のガス田「白樺」(中国名・春暁)で、中国が先月下旬から 単独採掘に入っていたことが明らかになった。

 実は、中国が採掘プラントの建設を再開したことは、昨年秋から明らかになっていた。自衛隊機が連日、上空を偵察飛行して写真を撮影していたから だ。これらの写真は、政府部内で共有され、外交・経済関係の各省庁から繰り返し、早期に断固たる措置を採るよう官邸に意見具申されていたという。

 ところが、鳩山由紀夫、菅直人両政権はそろって、国民に写真を公表しなかった。それどころか、中国に対する断固たる抗議を怠ったのだ。

 民主党政権の優柔不断は、中国の強硬派を勢いづかせた。そして、2国間合意破りをエスカレートさせる結果を招いたとされる。

 経済面に着目すれば、違法操業を行い、逃げようとして公務執行妨害を犯した漁船の船長を、処分保留のまま釈放した問題より、2国間合意に反して、埋蔵量が豊富な海底ガス田を単独開発されたことのほうが政治的な責任は遥かに大きい。白樺と言えば、日本の領土内に埋蔵されているガスも採掘してしまうとされているガス田で、損なわれた国益は計り知れない。

 加えて、北方領土問題を抱えるロシアや、竹島問題を抱える韓国への影響も気掛かりだ。ガス田問題が、「日本は領土・権益保全に無関心だ」との誤ったメッセージを与えかねないからである。

 下の2枚の写真を見比べていただきたい。

06年7月に撮影された「白樺」。土台部分で建設はストップされていた。
今年8月撮影された白樺。掘削のためのボーリングを行う櫓が取り付けられ、施設が完成しているのが明らか

 最初のものは、2006年7月、尖閣諸島を視察した新藤義孝衆議院議員(自民党埼玉2区選出、安倍晋三改造内閣で経済産業副大臣)が撮影した白樺の様子だ。まだ採掘施設は土台に該当する部分しかできておらず、建設の途中でストップしている様子がはっきりと伺える。

 ちなみに、日中間では、福田康夫内閣時代の2008年、白樺を日中の共同出資で開発することで合意が成立し、正式な「条約が締結されるまでは、施設のそれ以上の開発を行わない」ことを約していた。このため、昨年8月まで、白樺は、この写真と変わらない姿を維持していた。

 次いでご覧いただきたいのが、2枚目の写真だ。この写真は、今年8月25、26両日、尖閣諸島を視察した衆議院安全保障委員会視察団の随行員が撮影した写真である。この写真では、白樺に、掘削のためのボーリングを行う櫓(=やぐら)が取り付けられ、いつ採掘が始まってもおかしくない体制が ほぼ完成しているのだ。

 この2枚の写真を見比べれば、中国が2008年の2国間合意を一方的に反故にしており、白樺の建設を進めてきたことは明らかである。

 では、いったい、いつ頃から、中国は2国間合意を破り、凍結していたはずの白樺の建設を再開していたのだろうか。

 前述の新藤議員や外交筋、防衛筋などの話を総合すると、中国が最初に船で建設資材の運び込みを再開しようとしたのは、昨年7月と翌8月のこと。白樺の周辺には、自衛隊が毎日、飛行機を飛ばして哨戒や監視を行っているので、前日と比べて、わずかでも変化があればわかるのだ。それゆえ、当時の 自、公連立政権は、中国の2回のチャレンジに抗議し、船舶を引き揚げさせることに成功した。

漁船船長逮捕後に持ち込まれた「ドリル」

 ところが、昨年9月以降、民主党政権では、自衛隊機が撮影した写真を一般公開することがなくなった。つまり、この1年、白樺が2枚目の写真の姿に向かってどんどん形を変容していたにもかかわらず、政府はその事実を日本国民に知らせ、警鐘を鳴らす責任を果たさなかった。

 加えて、中国が新たな機材を持ち込んだり、白樺の建設を加速させたりしても、民主党政権は、断固たる抗議をするということがなかった。

 例えば、今年1月になって、当時の岡田克也外務大臣が日中外相会談で、白樺の開発問題を話題にした時も、再開された建設が進み、2008年合意に 対する違反が明らかだったにもかかわらず、「合意に反するようなことがあれば日本としてはしかるべき措置を取る」などと一般論で中途半端なことを述べただけだったのだ。

 さらに、沖縄地検が9月7日に、違法操業を行ったうえ、海上保安庁の巡視船に体当たりして逃走を図ろうとした漁船の中国人船長を逮捕・拘留して以降、中国側の合意違反は露骨で大胆なものになっていた。12、13の両日、ドリルなど最終的な機材の搬入を完了。さらに、17日から20日ごろにかけて、実際の採掘を開始していたというのである。

 実は、朝日新聞や読売新聞がこの頃、紙面に掲載した白樺の写真からも、海面が白濁している様子が伺え、それも「中国の採掘開始の動かぬ証拠だ」との見方まで存在する。

 しかし、この時点に至っても、首相官邸は、そうした事実を公表しなかったばかりか、中国への抗議を怠り続けたのだ。それどころか、国際司法機関への提訴や、日本の採掘船を現場海域へ派遣し独自に採掘を開始するといった当然採るべき対抗措置の発動さえ決断できず、関係省庁の官僚たちをいら立たせる始末だった。

 新聞報道によると、駐中国大使の丹羽宇一郎氏が9月30日になって、ようやく胡正躍・中国外務次官補と会談、白樺問題で抗議したものの、その内容 はまたしても「これまでの合意に反するようなことがあれば、しかるべき措置を検討せざるを得ない」という生温いものだった。

 早ければ2カ月程度でガスが噴出し、本格的な搬出が始まるとみられている。事態が切迫していることすら理解できていないかのような態度に終始しているのだから、中国に舐められるのは仕方がないのかもしれない。

 こうした対応が、中国を大胆にしたことは明らかだ。日中の中間線の40キロメートルも内側の日本側の海域で、中国政府船によって、日本の調査船 が退去を強いられる“事件”が起きているのである。

 さらに、過去1年の優柔不断な態度は、「日本は領土保全に弱腰」との誤ったメッセージとして、ロシアや韓国に伝わっている問題も看過できない。すでにロシアは、メドベージェフ大統領が元首級として初めて北方領土を訪問すると表明しており、日本向けの示威行動の第1弾とみられている。韓国も最近になって、ヘリポートの建て替え計画や定期船就航など竹島の実効支配強化策を実施する構えを強めている。

 鳩山、菅内閣の戦略なき領土外交が損ねた国益は計り知れない。
 

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