都知事選の争点となる「築地移転」で浮上した「債券回収会社」のカラクリ
「東卸」の主導権争いが再び激化

 ポスト石原慎太郎が争われる来年4月の東京都知事選で、争点のひとつが「築地魚河岸」の移転問題である。

 石原知事は築地市場の移転を強力に推進、移転先の豊洲がガス工場跡地で、高濃度の発がん物質などの土壌汚染が発覚しても、その姿勢は変わらず、予算化して推進してきた。

 だが、昨年7月の都議選で移転反対の民主党が大勝、豊洲の土地購入を凍結。「移転か改築か」を巡る議論が激しさを増している。

 そうしたなか東京都は、9月22日、近隣の都有地を活用して築地を改築した場合の4つの建築プランを議会に明らかにした。

 それによると、改築した場合の建設費用は約1430億円から約1780億円と、豊洲移転費用の990億円に比べて割高であり、しかも豊洲の工期が4年に対してこちらは約12年~17年と、明らかに移転の方が有利となっている。

 こうした数字が出てくるのも当然だろう。3期12年の石原都政の集大成のひとつが築地の移転で、すでに、それを前提に作業が進み、さまざまな利権が生じている。石原知事は後戻り出来ない。その顔色をうかがう都の官僚が、移転に不利な案を出すわけがない。移転問題は、次の知事の手で新たな方向性を打ち出すしかない。

 政治の迷走に市場も揺れる。移転反対派の牙城となっているのが、市場内約750の仲卸で構成される「東京魚市場卸協同組合(東卸)」。賛成派と反対派が拮抗、昨年の理事長選では4回の「延長戦」を経て推進派の伊藤宏之氏が理事長に選出された。

 以降、賛成派による反対派の取り込み作業は進み、「緊張関係が緩んで賛成派が優位となった」(市場関係者)といわれている。その作業の一環が、東卸の特定調停である。

 ひとことで言えば、裁判所の調停を得て、金融機関が債権放棄に応じること。東卸はバブル期の過剰融資が重荷となって、昨年2月末の段階で約26億円の融資残高を抱えていた。

 ピーク時の130億円に比較すると大きくここまで減らしたものの、すでに12億円の債務超過に陥っている。優良貸付先は減少し、特定調停に駆け込むしかない、というのが伊藤理事長をはじめとする執行部の意向だった。

 それに沿って、今年4月6日、臨時理事会が開催され、賛成多数で特定調停を申し立てるという議案は決議され、金融機関も了承、特定調停は成立した。

 その中身は、約16億7000万円の債務残高のある商工組合中央金庫が約11億5000万円の債権を放棄、約14億円の債務残高のあるみずほ銀行が約5億5000万円の債権を放棄するというもの。組合員向け債権の換価金額は、虎ノ門監査法人の約1億4000万円(09年9月30日)を採用、債権は7月31日付けで、回収会社のマーケットプランニングに売却された。

 特定調停によって東卸は、金融機関からの信用を失い、当面、金融活動には支障をきたす。だが、長年、組合の"重し"となっていた借金からは解放され、ゼロからのスタートを切ることができる。組合には、歓迎ムードが漂っていた。

 しかし、6月の理事会あたりから、特定調停の"内実"が反対派の理事や組合員の知るところとなって、執行部への批判が高まった。5月13日に設立されたマーケットプランニングの出資者は、伊藤理事長を始め移転賛成派の理事6名で構成され、6名が債権買い散り費用の1億5000万円を調達したのだった。

 これは何を意味するのか。

「借金をしている組合員のなかには反対派が少なからずいる。彼らが、理事長ら推進派に生殺与奪の権を握られ、切り崩されていくでしょう」(反対派の組合員)

 問題は、理事長ら推進派で牛耳るというマーケットプランニングの"内実"が、理事会には正確に伝達されず、「急いで設立しなくてはならなかった」という理由で、仲卸の外から招請した伴忠夫社長と6名の出資者を事後承諾の形で決めていたことだ。

 前出の組合員はいう。

「特定調停そのものは、1年以上の歳月をかけ、金融機関も裁判所も納得させるスキームを組んだのに、回収会社だけが事後承諾で設立された意味がわからない。考えられるのは、実態を事前に知らせると、反対されて自分たちで回収を主導できないからでしょう」

刑事責任追及の動きも

 借金棒引プランの裏の思惑が明るみに出るにつれ、反対派が執行部への批判を強めている。まず、攻撃の対象となっているのが、「回収実績」のごまかしによって、異常に安く債権の換価金額が決まったのではないかという点だ。

 なにしろ約26億円だった貸付残高は、今年6月末時点で約19億4000万円にまで減少、しかも7月以降も返済は順調で、月に約1800万円が返済されており、このペースなら1年以内に1億5000万円は回収、残りは出資者への配当になる。

 この点を突かれた伊藤理事長らは、「利益は得ずに組合に還元する」という「覚書」があるというのだが、法的根拠を持つものではない。それならなぜ"密室"で決めたのか。密かにコトを運んだツケが回ってきている。

 反対派のなかには、別の会計事務所に組合員向け債権の換価金額を精査してもらい、もし「異常に安い」となれば、「組合の財産を不当に安く売り、それで利益を得ようとした」という背任罪で刑事責任を追及しようという動きがある。

 そうした"反撃"を通して、11月に予定されている総代会で反対派の理事が多数を占めることができるよう盛り返そう、というわけである。

 築地移転は、移転先の土壌が汚染されているという大前提がある以上、どこまでいっても反対運動が止む気配はない。その意思をすくい取ったうえで、新知事はどんな移転案、改築案を出すのか。猪瀬直樹、東国原英夫、舛添要一、勝間和代ら名前が取りざたされている候補予定者は、相当に腰を据えて態度を表明する必要がある。

(文中敬称略)

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