企業・経営
トヨタ「軽自動車参入」は「国内営業分社化」の布石
「工販合併」から30年で浮上した「自工分離」のシナリオ

 トヨタ自動車は28日、軽自動車の販売を2011年秋から系列販売店で開始すると発表した。子会社のダイハツ工業からOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受ける。

「ムーヴコンテ」や「ハイゼット」など3車種の供給を受け、年間販売目標は約6万台。すでに日産自動車がスズキからのOEMにより軽市場に参入しており、トヨタの参入により国内11社の自動車メーカーのうちトラックメーカー3社を除くすべてのメーカーが軽を売ることになる。

 これまでトヨタは、排気量1リットルクラスの小型車の燃費効率が軽並みに飛躍的に向上したことなどを背景に軽の税制優遇はおかしい、と問題提起してきた。しかし、ここに来て大きく方針転換した理由は主に2つある。

 ひとつは、エコカー補助金の終了により国内販売の落ち込みが予想されており、それに対しても「起爆剤」にする狙いがあると見られる。もうひとつは、長中期的に少子高齢化の加速によって国内市場(特に高級・大型車市場)は大きく縮小していくため、軽への参入で系列販売店の売上台数の落ち込みを少しでも食い止める狙いがある。ダイハツ側にとっても国内生産が増えるメリットがある。

 トヨタは国内に「トヨタ店」「トヨペット店」「カローラ店」「ネッツ店」「レクサス店」の5系列を持つ。今回、軽を取り扱うのは客層が重なる小型車が主力の「カローラ店」と「ネッツ店」に加えて、軽の販売比率の高い地域では「クラウン」や「マークX」など高級車を売る「トヨタ店」や「トヨペット店」でも取り扱う点もポイントだ。

"軽比率"が高い地域とは、四国や九州や山陰など。こうした地域は高齢化が進んだことで可処分所得が減り、「クラウン」などの高級車が売れにくくなっている。販売店の死活問題にもなりかねないとの危機感があるようだ。

今回のトヨタの軽市場への参入は、国内販売体制の大改革の「序章」であると筆者は見ている。今後は、ローコスト経営のため、国内営業部門の分社化などの施策が打ち出される可能性がある。1982年にトヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売が統合して、新生トヨタが誕生したが、約30年経過した現在、「自工分離」路線が現実味を帯びてきた。グループ内には反対意見もあるが、総帥の豊田章男社長は「分離推進派」とされる。

デフレ経済が進む中で国内市場は縮小するが、価格が安い軽は今後も一定の販売量は確保できるだろう。しかし、価格が安い軽を本気で売って一定利益を出すには、コストを下げなければならない。販売手法や設備投資のあり方、給与水準まで見直す必要がある。ダイハツとしのぎを削る軽大手のスズキは、言葉は悪いが、バイクなども手がける「町のモーター屋」ともいえるような店舗で売っている。「業販店」と呼ばれ、派手な宣伝もせず、質素な店舗だ。だからこそ利益が出る。

 これに対し、トヨタは高級車で収益を出す派手なビジネスモデルにシフトしようとしていた。軽を売って利益を出すには、意識まで含めた大改革が必要だろう。軽以外でも国内販売は低価格の小型車が主流になりつつある。このため、日産自動車は小型車「マーチ」の生産を国内から人件費などが安いタイに移し、日本に輸出している。安い小型車でも利益を確保するためだ。

 そこで、トヨタ社内では今、「国内営業の分社化」が極秘で検討されている。端的に言ってしまえば、日本を代表する企業トヨタが国内市場を「one of them」と位置づける戦略でもある。国内への経営のリソース配分を大きく見直し、これから収益の伸びが期待できる新興国市場に重点を置く狙いもある。

 トヨタはその布石を打っており、昨年12月1日付で、「収益・業務改革室」を新設し、仕事の進め方や収益構造を徹底的に見直す構えだ。新設された組織のミッションのひとつは、「国内営業の要員を30%削減すること」(関係筋)と言われる。さらにトヨタは昨年、宣伝部を廃止し、新会社の子会社を設立している。将来、国内営業が分社化された際に宣伝子会社も統合する布石と見る向きもある。

 すでに日産は国内の販売店の統廃合やバックオフィスなどの統合も進めているほか、販売店の不動産は統括会社が管理するなど、長期の経営状態が反映する「バランスシート」と短期の業績の成果である「損益計算」の管理を別々にしている。ホンダも国内の販売店系列をひとつに統合した。ライバルに比べてトヨタの国内販売の改革は遅れていたが、軽への参入を契機に一気に加速する可能性もある。

軽の開発に「リバースイノベーション」を

 最後に、排気量660ccの軽は日本独自の規格であるという視点からの改革論も付け加える。

 有識者の中には日本でしか通用しない軽はジリ貧と指摘する声すらある。世界のマーケットでは低コストの小型車が売れ筋になっており、日本の軽をベースに小型車を開発すればいいと単純に考えがちだが、世界のお客はそれほど甘くない。世界市場に通用する小型車を開発し、それをベースに日本市場に合った小型車(軽も含む)を設計する方が合理的ではないか。

 産業界では今、「リバースイノベーション」という言葉に注目が集まっている。市場の大きな新興国向けに開発した廉価商品を、先進国市場でも受け入れられるようにする開発手法である。軽の開発にも「リバースイノベーション」の発想が求められる、と筆者は感じる。

「工販合併」前のトヨタはマーケティングに強い旧自販が中心となり、インドネシアで廉価車「キジャン」の開発に成功し、アジアカーの先駆者となった。インドネシアでトヨタのシェアが高いのは、こうした実績を積み上げてきたからだ。トヨタにはこうした「DNA」がまだ残っているはずであり、新興国向けに開発した車をベースに先進国市場にもマッチした製品を造る大胆な戦略が求められている。

 国内では強力な販売網を持つトヨタが今回の参入で目標に掲げる6万台は、世界でのトヨタの販売台数の100分の1にも満たない。OEMなのでトヨタの開発負担は少ないと見られるが、ダイハツとの協業で世界に通じる小型車の開発の方が急務ではないか。

 すでに日産は「マーチ」に使う小型車用の「V-プラットホーム」と呼ばれる車の骨格を世界で100万台分生産する計画を打ち出している。このプラットホームを使い、インドや中国でも小型車を生産する。連結経営で見れば大きな効果が期待できるだろう。

 トヨタにも同様の発想が求められる。ダイハツと協力して世界に通じる小型のグローバルカーを造り、打って出ることができるかが「トヨタ再生」の試金石だと筆者は考える。

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