メディア・マスコミ
調査報道の未来形「ボイス・オブ・サンディエゴ」CEOインタビュー
持続可能なモデル目指すNPO

 これまで5回にわたって、公共性の高い調査報道に特化する民間非営利団体(NPO)に焦点を当ててきた。パイオニアの「ボイス・オブ・サンディエゴ(VOSD)」は「ジャーナリズムの末来形」とも見なされている。

 アメリカには調査報道NPOが誕生する歴史的土壌があった。1970年に公共ラジオ局「ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)」が発足し、以来、40年にわたってNPOとして存続してきた。VOSDのモデルになったのもNPRだ。

 日本にも公共放送のNHKがある。となると、NHKをモデルにした調査報道NPOも実現可能だろうか?

 答えはノーだ。NHKはNPRとは似て非なる存在だからだ。

 NHKではドキュメンタリーなど報道番組と並んで、看板番組でもある「紅白歌合戦」を筆頭にした芸能番組の存在感が大きい。芸能番組は民放でも制作できる。NHKが受信料を原資にする資金力にモノを言わせ、民業を圧迫している構図も描ける。

 一方、NPRは音楽番組も手掛けているとはいえ、あくまで報道番組を主力にしている。看板番組は、国内ニュースのほか国際ニュースも幅広く扱う「モーニング・エディション」だ。朝の通勤時間帯に車中で聞くリスナーを中心に1400万人が同番組を毎日聞いている。

 芸能番組を看板に掲げる報道機関がNPOの認定を受けられるだろうか。仮にNPOとして認定されたとしても、そんな報道機関がどれだけ寄付を集められるだろうか。通常、NPOとして認定され、存続していくためには、公共性の高さを売り物にする必要がある。

 だからなのか、NHKは視聴者からの寄付で成り立つNPOではなく、税金に近い受信料で成り立つ特殊法人だ。受信料の不払いが絶えないなか、収入源を受信料から寄付へ切り替えたら、NHKの経営は一体どうなるだろうか。

「面白いけれども、日本には当てはまらないモデル」――当コラムで調査報道NPOを連載中にこんな指摘も耳にした。確かに、日本の報道機関やNPOを取り巻く環境を考えれば、VOSD型の新メディアが誕生するのは容易ではない。

地域密着型「調査報道オンラインメディア」の元祖

 だが、「公共性の高い調査報道は健全な民主主義に不可欠」という構図は万国共通だ。日本でも将来、インターネットの普及を背景にメディア業界の大再編が起きるかもしれない。その際、「高コストの調査報道をだれの負担で、どう根付かせるべきか」が議論の基軸になれば、VOSD型の新メディアが注目されてもいい。

 地域密着型の調査報道に特化するオンライン新聞の元祖、VOSDの最高経営責任者(CEO)兼共同編集長はスコット・ルイス。調査報道NPOの現状やVOSDのビジネスモデルについて、カリフォルニア州サンディエゴの本社で話を聞いた。

――VOSDはオンラインメディアとして注目され、VOSD型の新メディアがアメリカ各地で誕生しています。 

ルイス 厳密にはオンラインメディアとして注目されたのではありません。われわれよりも先に誕生したオンライメディアはたくさんありますから。何が注目されたのかというと、オンラインメディアであるとともにNPOである点です。

 われわれがサンディエゴでスタートしたのは2005年。以来、コネチカット州ニューヘイブン、ミネソタ州ミネアポリス、ミズーリ州セントルイスなどで調査報道NPOが続々と生まれました。

 いずれも地域報道を特色にしたオンライン新聞です。

 資金の出所でも共通項があります。例えば、VOSDも含め多くの調査報道NPOは、フロリダ州マイアミにある慈善財団「ナイト・ファウンデーション」から支援を受けています。同財団はジャーナリズム支援で定評のある財団です。

 台風の目になっているのが、昨年にテキサス州オースティンで創刊された「テキサス・トリビューン」です。同紙は各地の調査報道NPO、とりわけVOSDのビジネスモデルをまねしているのですが、ケタ違いに大きなスケールで創刊されたのです。創刊時までにかき集めた資金規模はわれわれの5倍以上です。

 メディア業界の間では「テキサス・トリビューンはすごい」と話題になりました。そんな時、カリフォルニア州サンフランシスコで「ベイ・シチズン」が創刊されました。今年の5月です。なんと、同紙は資金規模でテキサス・トリビューンをあっさりと抜いてしまいました。1000万ドルも集めたのです。

――既存の新聞社が大リストラに見舞われ、調査報道から撤退するなか、調査報道NPOに期待が集まっている証しでしょうか?

ルイス ここにきて調査報道NPOの資金調達が勢いづいてきたのは確かです。多額の資金を集めたテキサス・トリビューンとベイ・シチズンがこれからどんな展開を見せるのか、興味深いです。

 調査報道NPOといってもVOSD型が唯一ではなく、さまざまな形態があります。例えば、1977年にカリフォルニア州バークレーで設立された「センター・フォー・インベスティゲーティブ・リポーティング(CIR)」や、2007年にニューヨークで設立された「プロパブリカ」があります。

 CIRやプロパブリカは、オンライン新聞というよりは「調査報道の卸売り」的な存在です。つまり、既存の新聞社やテレビ局を通じて調査報道の成果を世の中へ広く伝えるのを目的にしています。特定地域のニュースではなく、全国的なニュースを扱う点でもわれわれと違います。

 CIRは昨年、カリフォルニア州に特化した「カリフォルニア・ウォッチ」を立ち上げています。地域性も重視し始めたわけですね。ただ、親会社のCIRと同様に、自社のウェブサイトで記事を発表するというよりも、既存メディアとの提携に力を入れています。「調査報道版通信社」と呼んでもいいかもしれません。

――VOSDも既存メディアに調査報道を提供しています。

ルイス そうです。「パートナーシップ」と呼んでいます。収益の柱にはなっていないですが、今後力を入れていく分野です。記事の提供先にはオンラインメディアや新聞、テレビ局があります。

 テレビではNBC系列の地元テレビ局に週2本のレギュラー番組を提供しています。1つは「サンディエゴ・エクスプレインド」、もう1つは「サンディエゴ・ファクトチェック」です。いずれもVOSDのウェブサイト上にある人気コラムの名称です。

――調査報道の担い手は将来的にNPOになっていくのでしょうか?

ルイス 実はVOSDのようなNPOはすでに数十年も前から存在しています。公共ラジオ局のNPRです。われわれがモデルにしたのもNPRでした。ですから「NPRのオンライン版がVOSD」と言ってもいいかもしれません。

 先日、ロサンゼルスに行き、NPRの役員を前に講演しました。いろいろ質問されました。基本的に「調査報道はNPOが主体となって担わなくてはならない。各地で生まれる調査報道NPOはNPRのパートナーとなって協力していくべき」で一致しました。

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