「中国漁船船長釈放」直前まで公明党が菅政権に送っていた2つのシグナル
外交失政で状況は暗転

 民主党代表選で前幹事長・小沢一郎を敵に回して戦ったことによって、内閣支持率がV字回復した首相・菅直人は尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で船長を釈放したことによって、暗転した。

 一部に「大人の現実的な対応」という評価はあっても、日本が実効支配する尖閣諸島の主権を軽んじて中国の圧力に屈したこと、那覇地検が「わが国国民への影響や今後の日中関係を考慮した」として外交的配慮を優先したことは菅政権の失敗だ。
政権の暗転は「衆参ねじれ」の下、10月1日に召集される臨時国会、来年の通常国会における野党の出方に大きな影響を与えるだろう。

 代表選と、その後の内閣改造・民主党役員人事の影に隠れるようにして、公明党が政権側に2つのシグナルを送った。

 1つは、9月16日の公明党代表・山口那津男の記者会見だ。山口は参院選中に、政権にレッドカードを突きつけた路線を堅持しつつも、こう語った。公明党の基本的スタンスにかかわることなので、会見での言葉を忠実に再現したい。

「われわれは単純に解散一辺倒で求めていくということではない。この代表選の後、国民の内閣支持率というのは上昇傾向にあると思う。代表選で空白が生じた分、しっかりやってもらいたいという願望も表れているだろうと思う。衆議院で内閣不信任案、また参議院では問責決議案という手段を野党は持っているから、どうそれらを使い分けるかということは野党の攻め方だが、同時にそういう背景のもとでどう国民の望む政策を実行させていくかということも重要だ」

「統一地方選で問われる民意と国政で問われる民意というのはレベルが違う。われわれはこの統一選というのは地域の実情に根ざした、非常に住民と密接な関係のある課題が問われるわけだが、ここで国政レベルの民意を同時に問うということは有権者のとまどいを招くと思う」

 前者は国民の望む政策の実現を名分にして政権と妥協する余地があること、後者は来春の統一地方選と衆院選を同時に行うことは避けたい―という本音を明らかにしている。
深読みするなら、来年春の衆院解散・総選挙を回避できるのであれば、法案の賛否でさじ加減を考えるということだ。

 もう1つのサインは、成人T細胞白血病ウイルス(HTLVー1)対策を検討する政府の特命チームに公明党衆院議員・江田康幸が参加したことだ。これは、官房長官・仙谷由人がかねて仲の良い公明党幹事長・井上義久に働き掛けて実現した。ウイルス研究の専門家である江田の手を借りたいという仙谷の要請に、公明党内にためらいもあったが、特定分野のこととの認識で受け入れた。

 しかし、山口の記者会見と、政府の特命チームへの参加という2つの現象を重ね合わせると、公明党が自民党やみんなの党などと一線を画し、共闘路線を修正し始めたとみられてもやむを得ない。

高木公明党幹事長の政権批判

 公明党の協力は、政権側がのどから手が出るほど望んでいることだ。単独の政党との協力で、参院で過半数を確保できるのは自民党と公明党だけ。政権奪還を至上命題とする自民党が協力するはずがない。また、みんなの党、国民新党、その他の政党を組み合わせる方法も、政策で基本的な違いがあるのでなかなか難しい。

 となると、政権側のターゲットは公明党に絞られる。公明党にしても、さまざまな事情を抱える巨大宗教団体・創価学会がバックに控えているので、選挙時を除けば政権側と徹底的に対決するのは避けたいという思惑がある。

 だから、公明党は協力するのにやぶさかではないのだが、その前提は山口が「内閣支持率は上昇傾向にある」と語っているように、菅政権が国民の支持を得ていることだ。


菅政権が国民のプライドを傷つけ、支持を失っていくような失敗を重ねるのであれば、公明党の対応は自ずと厳しくなる。

 公明党の高木陽介幹事長代理は25日朝のTBSテレビの番組でさっそく「日本は法治国家でなくなった。国内法、領土を守るという国家として当たり前のことを放棄した」と、菅政権を批判した。中国船長釈放という外交上の失敗は国会における与野党攻防にも大きな影響を与えるだろう。

(敬称略)

 

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