小沢は死んだ。
そして菅と仙谷が争いを始める

さあ民主党政権、さらば小沢と言おう
新たな権力闘争

 もうあの小沢はいない。実はそのことは菅陣営にとってプラスではない。「反小沢」の看板を失えば、今度は陣営の中で新たな権力闘争が始まるからだ。政治とは始末に終えない人間の業である---。

「水に落ちた犬は打て」

 祭りは終わった。

 勝者は勝ち鬨を上げ、文字通り、夜を徹して飲み、歌い、踊った。敗者の陣営は「それでも善戦した」と強がった。しかし、不敗の常勝将軍と言われた男の神話は崩れ、配下の者たちの一部は、そのカリスマ性に明らかな陰りが生じたことを敏感に感じ取っている。

 ---小沢一郎は死なない。崇拝者らはそう言う。確かにそうかもしれないが、そうでないのかもしれない。

 論理的には、民主党に所属する国会議員の約半数、200名を掌握しているのだから、その数の力をもってすれば、十分に事を起こすことが可能だ。

 しかし、小沢一郎という政治家をカリスマたらしめていたのは、「絶対不敗」という神話だった。その神話はいま、崩壊した。党員・サポーター票、地方議員票、国会議員票と"3タテ"を食らって代表選に惨敗していたことで、「偶像」としての小沢一郎の価値は文字通り、地に墜ちたのだ。

 菅首相陣営に回った民主党の牧野聖修代議士は、こう語る。

「(249対51という)党員・サポーター票の結果を見ても、『選挙の神様』なんて言われながら、小沢氏は何もわかっていなかったのではないか。これで神話は崩れた。自分の選挙も勝てないようではね。今後、どんどん人が離れていくでしょう。これで小沢氏は終わり。終わりだ」

 それでも、小沢氏の側近と呼ばれる人々は、強気の姿勢を崩さない。小沢"親衛隊"議員の一人はこう強がって見せる。

「戦いはこれからだ。菅は予算編成もできなければ、普天間問題の解決もできない。遅くとも来年3月までには行き詰まって政権を投げ出す。再起はその時だ」

 しかし、中国の作家・魯迅が語った諺にこうある。

「水に落ちた犬は打て」

 小沢一郎という過去の遺物は、ついに水に落ちた。反小沢を標榜する者たちにとって、今回は仇敵を永久追放する機会だ。彼らは溺れる犬を、容赦なく棒で打ち据えるつもりでいる。菅派幹部は、こう断言した。

「小沢は干し殺す。周囲にいる人間でまともな奴は政府に取り込み、小沢を孤立させる。残るのはチンピラだけだ。カネを使えるポジションにいなければ、小沢なんて何の力もない。小沢自身が、いちばんそれをよく分かっているだろう」

 9月14日午後。代表選に敗北した小沢氏は、いったん永田町の議員会館の事務所に立ち寄り、側近議員たちと面談した。側近らは一様に沈痛な表情。その後、退出してきた小沢氏は、スーツの襟が見苦しく立ったままだった。身だしなみには殊更に気を使う小沢氏にしては、珍しい光景だ。

 それに気づきもしないほど、憔悴していたのだろう。「小沢さんは、ポイントで大差を付けられた党員・サポーター票について『実際の数は9万対13万だったんだけどなあ』と、残念がっていたそうです。そして、選挙区ごとの得票数の一覧表を、じっと見つめていたとか」(小沢派中堅議員)

 小沢氏はその後、赤坂の馴染みの居酒屋『日本海庄や』で開かれた、陣営の「残念会」に参加。若手議員約40人全員に「ありがとう」と酌をして回ったが、鳩山由紀夫前首相の合流を待つこともなく、約1時間で会場を立ち去った。

 ある新人が、「200人もいれば新党ができますね」と話題を振ると、小沢氏は「危険な思想だなあ」と苦笑したのみだったという。

「代表選に負けた場合、小沢氏は党を割って出る」

 戦前、そんなシナリオも喧伝されたが、その気力はもはやないように見えた。

 今回の敗戦で、「小沢氏は自分の限界を知ったはず」と語るのは、民主党ベテラン代議士の一人だ。

「『陣営に人がいない』という小沢氏の最大の欠点が最後に露呈した。実は14日の朝まで、国会議員票は確実に小沢陣営が勝っていた。ところが午前中のうちに、7人の議員から連絡があり、『菅さんのほうに投票します』と、土壇場で翻意を告げられた。13日と14日の二日間で、少なくとも20~30人の議員が小沢陣営から逃げた。それを小沢陣営は、引き止めることができなかった」

青木愛代議士の不倫スキャンダルも、ボスの足を引っ張った

 代表選直前、「党員・サポーター票は220対80で菅が圧勝」という、大手報道機関の調査データが流出したこともあり、「勝ち馬に乗れ」とばかりに、寝返った議員も多い。

「データを流したのは官邸では」というまことしやかな噂も出回った。深刻なのは、そうした謀略戦に、小沢陣営は何の対抗策も打ち出せなかったという事実である。

「小沢氏の側近は無力だった。小沢支持を表明した若手議員が地元で党員の票固めをしていたら、側近議員から、『先生、菅陣営に取り込まれてませんか?』と、しつこく電話がかかってきて閉口したそうです。

 ところが蓋を開けてみたら、その側近の選挙区では菅首相が勝っていた。他人を責め立てる前に、自分の足元を何とかしろ、ということです」(民主党若手代議士)

 樋高剛氏、三井辨雄氏といった側近議員の他、太田和美氏や小宮山泰子氏、岡本英子氏といった"小沢ガールズ"も、地元を固めることができず、ボスに大恥をかかせた。小沢グループの中では、内紛が勃発した。「側近が、新人らを恫喝して締め付けたので、みんな逃げた」「責任者は切腹しろ」と、罪のなすりつけ合いが起きている。

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