経営陣、政治家、官僚のエゴで
国民負担は増える一方
「リーク合戦」で迷走した「最期の日」

総力取材JAL崩壊 〔取材・文:森 功〕
昨年、映画『沈まぬ太陽』が公開されたのは、レクイエムだったのかもしれない。ナショナルフラッグキャリアはプライド一つを携え、ついに堕ちていった───。

 元旦に行われた社長インタビューは、最後の抵抗だったに違いない。正月3日の朝日新聞一面に登場したJALの西松遙(はるか)社長(62)のことだ。

 タイトルは、<日航社長、法的整理に反対 提携先「デルタ望ましい」>。官民ファンド「企業再生支援機構」に命運を預けてきたJALは、すでに手術台に乗せられたような状態。その容体が急変したのが年の瀬、法的整理方針の観測が流れてからだ。朝日のインタビューはそんなさなかの年明け、まな板の上の鯉だったはずの西松社長が、唐突に巻き返しに打って出たような格好で掲載されたのである。いきおい関係者は一様に首を捻(ひね)ったものだ。

「西松さんは単独インタビューだといいながら、朝日だけでなく時事通信にも声をかけていた。本来、JALにはもう政府方針に口を差し挟む力はありません。国土交通省の後ろ盾というか、むしろ国交省が糸を引いた、やらせインタビューだ、というのが、関係者の一致した見方です」(政府関係者)

 この1月8日、ついに政府が法的整理を決定したナショナルフラッグキャリア。グループ従業員4万8000人の巨大企業倒産は、事業会社として史上最大だ。週明けの12日は株式市場も騒然。JAL株の売りが殺到した。株価は8日の67円から一瞬にして一日の下げ幅制限いっぱいの30円下げてストップ安。商いが成立しない有り様だ。JAL幹部は一日中、取引先に対する説明に追われた。

 今回の倒産手続きは、事前調整(プレパッケージ)型の会社更生法。ジェット燃料の給油取引などを保全し、運航を止めないよう倒産手続きに入る。

 手続きの骨子は、日本政策投資銀行をはじめ銀行団などが3500億円の債権放棄。さらに支援機構自ら出資する3000億円を含め、この先、1兆円を超える公的資金を投じる。その金額も前代未聞だ。

 昨年9月に発足した「JAL再生タスクフォース」では、法的整理に必要な金額を6000億円と試算した。が、債務超過額は少なくとも8600億円と判明。現時点での資金支援だけで、実に1兆3950億円を想定し、さらにそれが膨らむ可能性まで示唆している。

 むろん、倒産処理に必要な金額がここまで膨らんだのは、法的整理を選んだからではない。むしろ早急に手を着けず処理が遅れたことによる赤字の垂れ流し。もっと言えば、長年蓄積されてきた負の遺産の実態を表している。

 JALの社員をはじめ関係者は、法的整理によって隠されてきた不透明な経営実態に光が当たる、と期待を寄せる。が、それも一筋縄にはいきそうにない。

 法的整理を決めたJALは、当初、株式の上場を維持させるとした。その理由は、株主優待チケットを持つ顧客が逃げる、などという奇妙な理屈だ。が、どだい8600億円もの債務超過会社の株は紙クズ同然。案の定、市場で株価は暴落し、結局、上場維持を見送った。

 法的整理を決めてなお迷走するJALの破綻処理。そんな迷走は昨年9月、前原誠司が国交相に就任した時からずっと続いてきた。一にも二にも迷走の原因は、この担当大臣にある。

「飛行機が飛ばなくなる事態は、避けなければならない。だからJALは破綻させない」

 大臣に就任してこの方、前原国交相は繰り返しこう訴え続けてきた。それを、従来JALを守って来た官僚寄りの発言だ、と指摘する向きも少なくない。

JALが飛ばなくなっても・・・・・・

 実はそんなJALは、今回の倒産手続きに先立つ11月、上場廃止の危機を迎えたことがある。11月13日の'09年度中間決算発表を控えたこの時期、一向に再建策の定まらないJALに対し、監査法人が決算の承認を渋った。監査法人の承認印が決算書になければ、上場廃止になる。それを避けるため、11月8日に急きょ首相公邸で鳩首会談が開かれる。国交、財務、厚労、国家戦略室、内閣官房の大臣が集まり、鳩山夫人手作りのおでんをつつきながら、対策を協議した。そこで、政府保証付きのつなぎ融資を検討すると合意。これが、いわゆる5閣僚の合意文書の作成だ。

 企業年金カットを強制的に行う年金特別立法をブチ上げ、政府保証とのパッケージにする。特別立法は、つなぎ融資が年金の積立不足の穴埋めに使われるのではないか、という世の批判を払拭するための苦肉の策だったと言える。だが、関係当局の真意は、そこにはなかった。JALの元役員が話す。

「財産権の侵害にあたる危険性のある年金カット法で、国会が揉めるのは必定。それは誰もが分かっていた。しかし、そうでもしなければ、JALはあの時点でアウトだったのです。まだ、スキームがまとまらず、関係者が揉めていたから、取りあえず法案提出をブチ上げて誤魔化し、上場廃止を防いだのでしょう」

 揉めた原因が菅直人副総理(当時は国家戦略担当相兼務)と前原国交相だ。一貫して反国交省で、JALの法的整理を主張してきたのが副総理の菅。対する前原はつなぎ融資による自力再建を主張してきた。ちなみに揉めた年金カットは、1月12日までにJALが3分の2を越える5991人のOBから減額の同意を取り付け、一応の決着を見ている。

 そうして12月に入り、その両者の対立が表面化する。<日航への融資 7000億円政府保証へ>(12月5日付・読売新聞夕刊)といったタイトルが12月上旬の各紙に躍ったかと思えば、22日には当時の財務相、藤井裕久が、

「(JALのメインバンク)政投銀は、完全な民間銀行だから、政府が口を出すこと自体が許されない」

 と、それまでの方針を転換し、予算に政府保証を組み入れないとした。前出の政府関係者が明かす。

「前原国交相はあくまでつなぎ融資を主張していたが、菅副総理が政府保証に猛反対した。一方で、藤井前財務相はその発言とは裏腹に、政投銀と連携して銀行を守ろうとした。政府保証がつかなければ、政投銀がもろに損失を被る。政府支援のスキームが定まらないままの融資は危険。で、菅さんの主張が通り、法的整理への流れが出来上がっていったのです」

企業再生支援機構の西澤宏繁社長。JALの次期CEO人事を巡り、京セラの稲盛和夫名誉会長に打診した

 12月30日には、首相官邸で関係閣僚が協議。JALの国際線撤退まで話し合われ、法的整理が決定的となる。

 もっともこの間、前原は「運航ストップを避けなければならない」と自力再建を唱え続け、「法的整理ありきではない」と抵抗する。

「その意向を反映したのが、元旦の西松インタビューだったのだと思います」(同・政府関係者)

 そうして前原国交相が最終的に白旗を上げた日が1月8日。ここまで頑固な姿勢は、法的整理した場合の悪影響を恐れたからだ、というのが定説になっている。繰り返すまでもなく最も恐れるケースが、航空機の運航ストップだが、果たしてそれほどの影響があるのだろうか。

 むろん実際、運航ストップの可能性は否定できない。最大の懸念材料が、航空燃料の取引だ。海外の空港で石油会社が給油を拒んだら、たちまちJAL機が飛べなくなる。ただし、それで日本人が現地から帰国できなくなるか、と言えば、決してそうではない。

 提携エアーラインとの路線を含めると、'09年4月現在のJALグループは国内143と国際282の合計425路線を飛ばしている。手元に、その運航状況をまとめた調査資料がある。仮にJAL路線がなければ、どの程度、利用者に影響が出るか。それを独自に調査した航空業界の内部資料だ。

 とりわけ、運航停止が懸念されるのは海外路線である。その最重要の成田空港の発着路線のうち、JAL単独で飛んでいるのは意外に少ない。ブラジル・サンパウロ、インドネシア・ジャカルタ、台湾・高雄、ハワイ・コナ、オーストラリア・ブリスベンの5路線のみだ。

 その他、ニューヨークやロンドンなど主要な空港はもちろん、多くはANAが飛んでいるか、あるいは海外キャリアの路線がある。今や成田は、JALがなくても、世界中の空港とつながっているのである。となれば、つまるところ、JALが飛ばなくなっても、たちまち困るわけではない。

 むしろJALしか飛んでいない単独路線が多いのは国内である。143路線のうち、87がJALの単独路線となっている。しかし、国内では新幹線やバスなどの代替交通手段が張り巡らされているため、40路線についてはすでに代替交通手段がある。例えば「羽田~山形」は山形新幹線、「羽田~石垣」は沖縄経由便などといった塩梅だ。つまり仮に飛行機がストップした場合、残る47路線をどのように運航するか、という話なのだ。

 といっても、本当に困るのは北海道の「函館~奥尻」や九州の「鹿児島~種子島」といった20の離島路線である。しかも、それすらまったく交通手段がないわけではない。離島の住民が使うのは、たいていフェリーだからだ。

 前原国交相が声高に叫んできた「運航ストップ回避」。仮にそれが現実のものとなった場合の実態が、これである。運航ストップの危険性を盾に取ってきた前原国交相や政府。その実、利用者にとってはさほどの影響はない。

 つまるところ、JALの運航状況を分析もせず、JAL倒産の危機感を煽(あお)ってきたのが、前原国交相たちではないだろうか。迷走の元凶がそこにある。

 だが、破綻処理が遅れれば遅れるだけ、ますます国民負担が広がる。それだけは間違いない。

(文中一部敬称略)

取材・文:森 功(ノンフィクションライター)
もり・いさお 1961年生まれ。岡山大学卒。新潮社勤務などを経てフリー。タイムリーな『血税空港 本日も遠く高く不便な空の便』(幻冬舎新書)が話題に。最新刊『同和と銀行 三菱東京UFJ“汚れ役”の黒い回顧録』(講談社)は大好評4刷!

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