ドイツ
民主主義か、商売か?理念か、現実か?サウジアラビアへのレオパルド戦車輸出でもめるドイツ

 特ダネを出したのは、ニュース週刊誌『シュピーゲル』のオンライン版だった。"ドイツがサウジアラビアに主力戦車200台を輸出!" すでに売買が成立したように取れる見出しであったが、その後、「契約はまだ成立していない。したがって、記事の内容を適切なものに変更した。間違いをお許しいただきたい」との訂正記事が出た。

 しかし、そんなことは、もうどうでもいい。ドイツ国民はやおら、「何? サウジアラビアに戦車を輸出?」と耳をそばだて、メディアはさっそく戦車の型やら、すでにこの戦車がどこの国に輸出されているかを書き、もちろん野党はここぞとばかりに声を張り上げたので、ついに6日の国会は蜂の巣をつついたような大騒ぎになってしまった。武器、それも主力戦車の輸出ともなると、やはりドイツでも皆、興味津津だ。

 問題の戦車はレオパルド2。生まれてこのかた戦車に興味を持ったことはなかったが、調べてみたら、優れモノのハイテク戦車である(当たり前か!)。これについては後述。

 ドイツは実は、アメリカとロシアに次ぐ世界第3位の武器の輸出国なのだそうだ。いつも平和の使者のような顔をしているので、武器の大商人とは知らなかった。しかしそういえば、環境大国としてCO2削減を世界中に提唱しながら、人間の一番多い中国に熱心に車を売っているのもドイツである。それでいて、理性の国のイメージは絶対に崩さない。このしたたかさ、日本も少し見習ったほうがいいかもしれない。

 さらに驚いたのは、ドイツの一番のお得意さんがギリシャで、全武器輸出の15パーセントがギリシャ行きとのこと。この国は、破産を食い止めるためにドイツから多額の借金を重ねながら、ドイツの武器を買っているのだ。ドイツ国民の血税の一部は、ドイツの軍需産業に還元されているということなのだろうか。

カンカンに怒ったメルケル首相

 さて、サウジアラビアがレオパルド2に触手を伸ばしたのは、何も今回が初めてではない。すでに1980年代、SPD(社民党)のシュミット首相が売却の許可を出しているが、当時、政府内での反対が激しく、結局、商談成立には至らなかった。その後1982年、政権はCDU(キリスト教民主同盟)に移ったが、新首相コールは2度とサウジアラビアへの戦車の輸出を認めなかった。その理由は、サウジアラビアがイスラエルと敵対していたからだ。ドイツは道義上、イスラエルの敵になる可能性が少しでもある国には、武器を売ることはしない。

 今回、野党が大騒ぎをしている理由は、しかし、イスラエルではない。イスラエルの軍隊はすでに精鋭で、いくら優れモノといえども、たかが戦車ごときが国家防衛の脅威にはならない。しかも今では、サウジアラビアとイスラエルは、イランという共通の敵が出来てしまったので、"敵の敵は味方"の法則により、敵対はしていないとみられる。では、何が問題かというと、サウジアラビアが反民主主義の国家であることだ。

 原則的にドイツは、紛争地帯や治安不穏な地域、あるいは、反民主主義的な思想を持つ国家には、戦車や戦闘機など大きな武器は輸出しないことになっている。つまり、その理由によって、今までアラブ地方への戦車の輸出はなされていない。アラブ、イラン、北アフリカは、欧米式の民主主義を採らない国が多く、しかも常に紛争の火種を抱えている。

 特に現在、アラブ地域では民衆の一揆が盛んで、チュニジアもエジプトも長年の独裁政権が覆った。そして、シリアとリビアは内戦状態。イエメンやバーレーンでも、民衆のデモが起こっている。

 その、2月に起こったバーレーンの民衆の反政府デモを残酷に押しつぶす手助けをしたのが、サウジアラビアの軍隊だった。つまり、サウジアラビア政府は民主主義の抑圧に尽力しているわけだ。そんな横暴な国家に戦車を輸出すれば、近いうちに、ドイツ製の戦車が無辜のアラブ民衆をなぎ倒すことになりかねない。それは決してあってはならないというのが野党の反対理由だが、確かに一理ある。そんなことになれば、ドイツ人は寝覚めが悪いに違いない。

メルケル首相はカンカンらしい〔PHOTO〕gettyimages

 ドイツでは、武器の輸出許可は国会の承認を必要としない。輸出を許可するかどうかを決めるのは、内閣のメンバーで構成された連邦安全保障委員会というところで、会議は秘密裏に開かれ、時期も内容も一切公表する義務はない。一年以上たってから、軍備報告書が提出されるだけだ。

 連邦安全保障委員会の構成メンバーは、首相、外相、内相、財相、法相、国防相、経済技術相、経済援助相などだが、今回、秘密会議の内容がマスコミの知るところとなってしまったということは、おそらくこの中の誰かが故意に漏らしたと考えられるため、メルケル首相はカンカンらしい。

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