海外旅行が空前のブーム!「超大型」15連休に浮かれる北京市民
尖閣諸島の漁船問題などどこ吹く風

 最近の日本の中国報道を見ていると、一艘の中国漁船を巡って日中が一触即発で、いまにも中国全土で抗日デモが勃発しかねないかのようだが、マスコミが創り出す‘マジック‘に騙されてはいけない。

 こちら北京は、いたって暢気なのである。街行く人々の頬は弛みっぱなしで、普段はけたたましいクラクションを鳴らして走るタクシーですらも、すっかりおとなしい。昨日は重い荷物を背負って地下鉄に乗っていたら、初めて席を譲ってくれたし、今日はパン屋さんが初めてまけてくれた。

 皆がニコニコ、ウキウキ。北京っ子たちは突然、性格が陽気になったようだ。

 なぜか。それは、「両節」と呼ばれる中秋節(旧盆)と国慶節(建国記念日)の超大型連休を控えているからである。中秋節は、9月22日から26日まで5連休、国慶節は、10月1日から10日まで10連休。合わせて何と、15日間の休日! これで文句を言う人はいない。

 まさに、胡錦濤政権から国民へのビッグプレゼントである。

 まず前半の中秋節だが、日本人がバレンタインデーにチョコレートを贈るように、中国人は中秋節に、月餅を食べないと気が済まない。月餅は一家円満、順風満帆の象徴であり、9月22日の晩には、中秋の名月を愛でながら、月餅を食らうのである。

 だからこの時節、どの店へ行っても月餅が山と積まれていて、近くのウォルマートでは、巨大な「月餅特設会場」が設けられ、「月餅レディ」なる専用の女性従業員たちまで配置されていた。

 「月餅レディ」の一人に聞くと、月餅の原料である白砂糖や豆類が高騰しているため、「減肥月餅」(ダイエット月餅)などと表示して、小ぶりにした月餅が増えたのが、今年の特徴だという。やはり北京の3大老舗である稲香村、大三元、宮頤府の月餅セット(59元~599元)が根強い人気だそうだが、なぜか北京ダックの老舗・全聚徳まで月餅商戦に‘参戦‘していた。

 一般に月餅は、南方へ行くほど高級になっていき、香港製が最高級品である。1個150元(約1900円)もする「魚翅月餅」(フカヒレ月餅)や「鮑魚月餅」(アワビ月餅)などというシロモノも北京で出回っている。この辺りは、やはりバブルである。

 また、スーパーの入口には、月餅にのみ使える金券「月餅カード」を売買する「黄牛」(ダフ屋)が横行しており、「月餅カード安いよ!」などと叫んでいる。さらに、月餅そのもののニセモノも横行しており、北京ではすでに9銘柄の「ニセ月餅」が摘発された。

 先週末に封切りになった張芸謀監督の新作映画『サンザシの恋』を観に行ったら、出口で「サンザシ月餅」が山と積まれていて、少し興冷めしてしまった。スターバックスでさえも、フランス国旗になぞらえた「三色月餅」をメニューに載せているほどだ。

 中国全土でこの時期、一体いくつの月餅が消費されることだろう? 一人5個ずつ食べたとしても、中国には13億数千万の人がいるから、70億個! 

 中秋節には、バレンタインデーと同様、若いカップルにとって、その晩どこで月見をするかも重要だ。今年の北京の一番人気は、この9月にオープンしたばかりの北京最高層、330mの国貿グランドホテルの80階にあるカフェバーだ。

 先日、ここにお茶しに行って驚いたが、「月に最も近いカフェバー」と銘打って、席に望遠鏡までセットしてあった。22日の当日は、すでにカップルたちの予約で一杯だという。ただ余計なお世話かもしれないが、せっかく80階まで上がって彼女に高額の出費をしても、北京の空は光化学スモッグに汚染されているので、名月を拝めないのでは? 

 また、最近中国で流行しているリチャード・クレイダーマンも、「中秋節コンサート」を予定しており、こちらもプラチナチケットとなっている。彼は昨年のクリスマスにも、人民大会堂でクリスマス・コンサートを行い、大成功を収めた。日本人からすれば、すっかり「過去の人」だが、どっこいこのオールド・ピアニストは、中国を拠点に生き延びているのである。

5時間の飛行で変わるあなたの人生

 次に、後半の大型連休、すなわち国慶節の10連休では、海外旅行が空前のブームを迎えている。人気旅行雑誌の『新旅行』(9月号)は、「5時間の飛行で変わるあなたの人生」と銘打った特集を組んでいる。そこでは、10連休のお薦め旅行スポットとして、マレーシア、フィリピン、インドネシア、フィジーなどの南洋のリゾート・アイランドを挙げている。

 ゴルフ、スキューバダイビング、野生動物観察、スパ、海鮮料理などで、中国国内での日頃のストレスを解消できること請け合いだという。

 また、ライバル誌の『世界』(9月号)は、「テーマを持った海外旅行」を薦めている。例えば、ラスベガスで結婚式を挙げる、イギリスにアガサ・クリスティの足跡を訪ねに行く、ケベックにサーカスとパントマイムを観に行くといった具合だ。

 中国青年旅行社の窓口に行って、人気スポットを聞いてみたところ、次のように答えた。

 「ちょうど一年前の3大人気海外旅行スポットは、トルコ、エジプト、スイスでした。しかし今年の秋の大型連休は、人々の趣向がより多様化していて、どこが一番人気とか、一概に言えません。日本にもかなりの団体旅行客が行く予定で、特に北海道が人気です」

 中国人が北海道に殺到するのは、中国ナンバー1の映画監督・冯小鋼が、北海道を舞台にして撮った恋愛映画『非诚無擾』が大ヒットしたからだ。ちょうど『冬のソナタ』のヒットで、日本のオバサマたちが春川に殺到したのと、よく似ている。

 ともあれ、いまの北京の街は、約20年前のバブル華やかなりし頃の東京を彷彿させる。当時の日本の若者たちが、『地球の歩き方』を片手に平然と国境を越えて行ったように、いまの北京っ子たちも、普通に海外旅行に出掛ける時代になった。

 実際、私の周囲の若い中国人たちに大型連休の予定を聞いても、「済州島に馬乗りに行く」とか、「バンコクでショッピング」などと、皆積極的だ。北京で「寝正月」ならぬ「寝国慶節」を決め込もうとしているオヤジとしては、少々引け目を感じる次第である。

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