瀬戸内寂聴vs塩野七生「人生を語ろう、愛を語ろう!」 「現代ビジネス」創刊記念対談〔前編〕

2010年01月18日(月) 現代ビジネス

現代ビジネス賢者の知恵

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瀬戸内寂聴
せとうち・じゃくちょう 1922年徳島県生まれ。東京女子大学卒業。小説家、比叡山延暦寺禅光坊住職。代表作に『夏の終り』、『花に問え』など。近年は『源氏物語』全10巻をはじめ源氏物語を題材にした著書を多数発表。'06年に文化勲章受章。近著に『わたしの蜻蛉日記』

瀬戸内 その町の人口はたったの5千人。そこへ倍以上の人たちがバス150台で全国からやって来るんです。外国からも来る人がいます。寺があるのは本当に気の毒なくらい何もない田舎なんですけれど。

塩野 そういうとき先生のお話を一対一で聞きたいという人がいますか。

瀬戸内 います、います。だけどその暇がない。だから法話を一時間やったあとで、会場で手をあげてもらって一対一の一問一答の時間を持つんです。

塩野 なるほど。

瀬戸内 そしたら何千人もいるのに、平気で訊いてくるんです。他の質問者が目には入らないのね。まわりに他人がいるのを忘れて、「うちの亭主は浮気して、また浮気してます。どうしましょう」なんてそういう恥ずかしいことを質問してくる。それから「姑が嫌いで嫌いでたまりません。一緒に墓に入りたくありません」とか堂々と訊いてくるんです。その人はそのとき精神的には私と一対一なんです。

塩野 一万人の人が先生のお話を聞いている。そのときはどんなお気持ちでお話なさるんですか。一万人にそれとも一人一人に。

塩野七生
しおの・ななみ 1937年東京都生まれ。学習院大学卒業。小説家。イタリアを舞台にした歴史小説を数多く執筆。主な著書に『海の都の物語』、『ローマ人の物語』。'02年、イタリア政府より国家功労勲章を授与され、'07年、文化功労者に。最新刊は共著『ローマで語る』

瀬戸内 会場には赤ん坊を抱えている人から90歳の人までいるんですよ。それをみんな満足させるなんて神業です。だからわかる人だけ聞いてくれればいいと思って話すんです。難しいことは言っちゃダメ。政治のことや仏教の難しいことは話さない。来た人は何か悩みがあるんですね。だから最初はみんな暗い顔をしてるんです。本堂の階段に立ってやりますから、そこからみたら表情がわかるんです。それが帰るときはホントに明るい顔になっているの。

塩野 それは国民栄誉賞もんです。いま日本人みんなを政治家や財界人が揃って暗くしているなかで、人の心をちょっぴりでも明るくすることは大変なことです。先生はそういう人たちにギブだけなんですか。それともテイクはーー。

瀬戸内 それがね、もう何年もやっていたら疲れてしまってね。あるとき何千人もの人に、この小さい体から精気を吸い取られているような気がしたんですよ。そうするとしんどーくなって、くたびれてわたしもう続かない、もうダメだと思ったんですよ。でもふっと視点を変えて考えてみたら、このわたしの小さな体が何千人の人から逆に精気をいただいているかもしれないと気がついたんです。そしたらまた体も気も元気になってきたの。

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