「幸せとは何か」ブータン王国レポート(下)
「国民総幸福度」委員会トップのカルマ・ツェテーム長官に聞く
「GNHを支える4つの柱」

政庁があるティンプーのゾン(城)

 ブータンの首都ティンプーの町の北側にある城に、ブータン政府の中枢部はあった。ゾンと呼ばれる城はブータン国内の町々にあるが、首都だけあってその規模は大きい。仏教国ならではの様式だろうか。7つの仏塔様の建物が回廊で結ばれ、白い城壁の上に乗っている。低層の屋根はエンジで、高層は黄色。黄色い屋根は政庁か寺院にしか許されないそうだ。

 その白い城壁の下を歩いていくと左手に城内へと続く大きな石段があった。南東の角の塔には第五代ワンチュク国王の執務室があるという。中庭から東側の回廊部分に入り木製の急な階段を登った奥に「長官」の部屋はあった。

 Gross National Happiness Commission(GNH委員会)。ブータンが掲げるGNH(国民総幸福度)の考え方に基づいた政策を立案しているブータン政府の司令塔だ。日本語では国家計画委員会と訳されることもある。そのトップであるカルマ・ツェテーム長官を訪ねた。

指標のはずのGDPや株価が目的化する

GNHC長官

 ブータンの民族衣装であるゴに身を包んだツェテーム氏は腰から剣を下げている。ダショーと呼ばれる貴族は城内では帯剣が義務なのだという。

 ツェテーム長官に聞きたかったのは、ブータンがなぜGNHにたどり着いたのか。世界各国が指標とするGNP(国民総生産)やGDP(国内総生産)についてはどう考えているのか、という点だった。

 このレポートの前回までにも触れたように、ブータンには今、猛烈な勢いで外部からヒト・モノ・カネが流れ込みつつある。モータリゼーションが急速に進み、パソコンや液晶テレビが一般の家庭の中にも入り始め、誰もが携帯電話を持つようになった。

 だからこそ、経済成長とどう向き合うのか、GDPをどう考えるのか。国民の幸福とは何なのかが改めて問い直されているに違いないと考えたのだ。

 「失業率を低く抑え、良好なGDP成長率を保つことはてとても重要だ」と長官は言った。「だが経済発展と同等に社会的、文化的発展も重視しているのがわれわれが少し違うところだ」と付け加えた。

 ブータンが国家の政策決定にGNHの考え方を取り入れたのは1970年代のこと。先代の第四代ワンチュク国王が、究極の目的とは人々の幸せだが、GDPや株価指数といった数字自体が目的化し、本来の大きな絵を忘れているのではないか、という疑問を呈したことから始まったという。物質的に豊かになることが必ずしも精神的な幸福には結びつかない、というわけだ。

 質問にGDPを持ち出したのには、「貧しくても幸せ」であることを政府が強要しているのではないか、という疑念もあった。だから、経済成長も大事だという話を聞いて、少し安心した気持ちになった。要はGDPなど数字に表れる経済成長と、数字での把握が難しい国民の幸福感をどうやって両立させ、バランスをとるか、というのがブータン流ということなのだ。

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