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地デジのデタラメ 最終回
関連団体を次々作り「天下り」「高給」「補助金」拙
速な地デジ化の陰で肥え太る"電波官僚"の噴飯
東武鉄道が1430億円を投じて建設中の「東京スカイツリー」。開業5年目には、観光収入や電波使用料など38億円の収入を見込む 〔PHOTO〕香川貴宏

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[取材・文: 亀井洋志(ジャーナリスト)]

 難視聴、廃棄テレビ問題、電波利用料の矛盾・・・。

 山積する課題と国民の不満に真摯に目を向けず、1年後のアナログ完全停波が、突き進められていく。

 一体なぜ、そこまで拙速な移行が必要なのか。

 浮かび上がってきたのは、政治家に代わり情報通信分野で利権を拡大させる官僚の野望だった。

 まだ完成前だというのに、新たな観光スポットとして見物に訪れる人が後を絶たない「東京スカイツリー」。新名所として持て囃されているこの巨大な電波塔は、総務省における"電波官僚"たちの権威の象徴である。

 新たな電波塔である東京スカイツリーの開業予定は'12年春だが、フルパワー送信までなお6ヵ月の時間を要する。地上デジタル放送への完全移行およびアナログ放送の終了は、来年7月24日だから、本格送信はその約1年後となる。

 しかし、送信がスカイツリーに移れば、新たな山陰、ビル陰問題など受信障害が起きる恐れがある。そうなればせっかく立てたアンテナも、スカイツリー方向に再調整しなければならない事態となる。

「その時になってみないと分からないが、おそらく関東圏の5~10%程度、100万世帯前後でアンテナの向きを変える必要性が出るのではないか」(アンテナ工事の技術者)

 総務省の地上放送課は「問題なし」と強調するが、蓋をあけてみなければ分からない。本来ならば、地デジ化を"国策"として遂行する以上、スカイツリー開業後に完全移行を実施するのが常識的な判断というものだ。

 なぜ、性急に完全移行に踏み切らなければならないのか。今回の拙速な地デジ移行で、いったい誰が得をするのかということを突き詰めていくと、つまるところ、新たな官僚利権に収斂される。

 総務省の前身である旧郵政省はかつて霞が関ではなく麻布狸穴にあったことから、「狸穴村の三流官庁」と当時の事務次官が自嘲するほど、予算の取れない官庁だった。一方で、田中角栄が郵政相に就任した'57年、全国43のテレビ局に一括して免許を下ろし、以来、旧郵政省とテレビ局は持ちつもたれつの関係になった。

 そして今や、放送・通信分野のデジタル化、IT化が急速に進んだことで一大利権省庁にのし上がった。'01年1月の省庁再編で自治省、総務庁と統合し、現在の総務省となった後は、先細りが見えた郵政3事業の現業部門を外局の郵政事業庁として切り離し、後に名ばかりの民営化によって"焼け太り"に成功する。

 それとともに成長産業である通信業界、デジタル化を進める放送業界に目を向け、関連の公益法人を続々と発足させ、新たな天下り先を作ってきた。

補助金を吸う関連団体

 P7の表にあるように、数多ある電波・通信関連団体の中でも、地デジ化において中心的な存在が、社団法人「デジタル放送推進協会(Dpa(デイーパ))」と同「電波産業会(ARIB(アライブ))」である。

 総務省所管のDpaは視聴者の相談窓口である「デジサポ」を運営するなど、地デジ普及のための業務を請け負っている。理事長(非常勤)には日本テレビ最高顧問の間部耕苹(まなべ こうへい)氏、専務理事にNHKのプロデューサーとして活躍した高嶋光雪(てる ゆき)氏が就いている。

 この他、放送局や家電メーカーの幹部クラスがずらりと理事として名を連ねている。総務省からも二人の官僚が天下っている。Dpaの'08年度の総収入額のうち約17億円(収入の33%)が国からの補助金で賄われている。元特定郵便局長で、『地デジ利権』の著者である世川行介氏が解説する。

「Dpaは、典型的な補助金に依存する公益法人です。国民の前面に立って地デジ対策を行っているDpaがオモテ部隊なら、ウラ部隊として暗躍しているのがARIBです。ARIBは地デジ視聴に必要な各種規格を定めており、『B-CASカード』もその一つです。国民に強制力を持つようなカードの運営を、いったい何の権限でやっているのか。

 国が1800億円を投じた周波数整備事業『アナアナ変換』(*註1)を独占的に受注したのもこの団体です。オモテでは地デジのメリットを謳いながら、ウラでは関連天下り団体にカネが落ちているんです」

*註1 アナログとデジタルの電波が混信しないように、アナログ周波数を変えること
Dpaの間部耕苹理事長は「アナログ放送用機材の部品は製造中止になっており、延長できない」と話す 〔PHOTO〕片野茂樹

 デジタル放送は、何度録画しても画質が劣化しない。このため、著作権保護を名目に導入されたのが「B-CASカード」だ。デジタルコピーが制限されるため、視聴者からの評判がすこぶる悪い。

 このB-CASカードの発行を一手に引き受けているのは、元NHK職員が社長を務める一民間会社に過ぎない。公正取引委員会が独占禁止法違反の疑いで調査に乗り出したことから、現在はカードの運用が見直される方向にある。

「いろいろご指摘はありますが、時間までに解決していきたい」と話すDpaの岡山淳氏 〔PHOTO〕郡山総一郎

 ARIBには理事に元総務省と郵政省の官僚二人が名を連ね、全職員157人のうち12人が総務省などからの天下りだ。国からの補助金も4億6400万円に及び、総収入額の21.3%を占めている('09年度)。

 電波・通信関連団体の一覧を見ると、財団法人「放送セキュリティセンター」の理事長に森本哲夫氏の名がある。デジタル放送の暗号化などを研究している公益法人だが、森本氏は同時に社団法人「日本ケーブルテレビ連盟」の理事も務めている。

 「放送セキュリティセンター」のホームページでは肩書が隠されているが、森本氏は郵政事務次官を務めていた人物である。

 官僚時代に培った技術や人脈を、公益法人や許認可権を握る企業群で生かすこと自体は何ら批判すべきことではない。しかし、省庁のキャリア官僚は60歳前に退官し、その後の天下り人生が長い。だいたい20年間近くかけて3ヵ所、4ヵ所の法人を渡り歩くことになる。

 そのつど高給で優遇され、退職金が支払われる。要するに"渡り"は、カネ儲け以外の何物でもないから問題なのだ。

一方、「広報に聞いてくれ」と遮り、記者の問いかけに答えなかったDpaの山腰明久氏 〔PHOTO〕郡山総一郎

 例えば森本氏もまた、典型的な"渡り"官僚の一人だ。'93年に退官後、郵便貯金振興会理事長に就任する。次官級が天下る指定ポストの一つだ。

 その後、衛星放送セキュリティセンター理事長、マルチメディア振興センター理事長、通信・放送機構理事長(現・独立行政法人情報通信研究機構)、日本サテライトシステムズ(現・JAST)会長、日本オンライン整備会長・社長を経て、現職に就いた。

 放送セキュリティセンターの理事長職は非常勤の名誉職であるが、これまでの法人でいくら報酬を得てきただろうか。

 天下り先の一つだった情報通信研究機構のケースを見てみよう。目安として'06年度の支給を参考にすると、理事長の年収は約2300万円になる。地デジ化推進に伴って総務官僚はこうした"おいしい天下り先"を新たに作り出したのだ。

 放送事業はかつて政治利権と言われた。前述したように、'57年に田中郵政相が、全国43局に大量免許を下ろし、さらに、朝日、毎日、読売など新聞資本とテレビ局ネットワークの系列化を実行する。天下り官僚も、田中派の意向を酌んで迎え入れられた。

 '59年には事務次官の小野吉郎氏がNHKに天下って、後に会長に就任した。民放でも'71年に事務次官だった浅野賢澄(よしずみ)氏がフジテレビに天下り、社長、会長を歴任。民放連の会長も2期にわたって務めた。放送業界に詳しいジャーナリストの坂本衛氏が解説する。

「浅野氏ら天下り官僚は、田中派主導で免許という最大の切り札を持って送り込まれ、放送局に睨みを利かせたのです。国会議員のテレビ出演を半ば強要するなど、テレビの政治利用は田中から金丸信、小渕恵三、野中広務の各氏へと引き継がれていった。

 デジタル化対策においても、'99年に東京キー局4局が総務省の技官OBを役員として受け入れています。現在では郵政族の"ドン"と呼ばれるような存在はいなくなり、さらに民主党政権になったこともあって政治家によるテレビ局への影響力は薄らいでいますが」

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