グラスワインを口にしたとたん涙が止まらなくなった
私が体験した「震災ソウウツ」

東日本大震災発生から4ヵ月

 東日本大震災から4ヵ月が経ちました。

 被災地に雪の降り積もったあの春先から、灼熱の太陽に照らされる夏へと季節は確実に移り変わりました。

 みなさんはどのような気持ちで毎日を過ごしていらっしゃいましたか。

 私はいわゆる「震災ウツ」、いえ「震災ソウウツ」というものを味わっていました。

 報道に携る者がこんなことを口にするのはおかしいと思いますか?

「テレビが来た!」

 この4ヵ月、私は出演している番組「スーパーモーニング」や「モーニングバード!」(テレビ朝日系~)での震災取材に明け暮れていました。

 震災直後は、主に都内の震災の影響に関する取材でした。

 食料やガソリンなどの物資が滞り、さらに前日夜に不意に発表された計画停電による混乱。

 この頃は、地震大国の日本の首都がいかに災害に脆いか愕然とし、細かな情報を拾い上げようとしながらも、全国ネットで都内の停電事情を取り上げることに、「家や家族を失くした被災地の人が見たらどう思うのか?」と、誰のための、何のための報道なのか葛藤の日々でもありました。

 一週間ほどして震災被害の全体像が見え始めた頃、先発隊と交代する形でいよいよ被災地に入りました。

 初めて入った被災地は茨城県のひたちなか市。

 最初の感想は、「ああ、本当にテレビで見た映像と同じ光景だ」というものでした。

那珂湊漁港

 ヒラメやカツオの水揚げで知られる那珂湊漁港は津波被害を受け壊滅していました。ガレキが積まれ、市場は外枠が残っているのみ。新鮮な魚料理が名物だった飲食店の中は、すっかり泥で覆われていました。

 すぐ隣の大洗町では住宅地に津波が押し寄せ、家の1階部分まで浸水したといいます。

 壁に残る津波の跡。

壁に残る津波の跡

  数波の津波に襲われたことを幾筋もの線が記録しています。一番高いものは、152センチの私の身長よりも上にあります。

 私達取材班は、茨城の津波被害を調べるため、そのまま海沿いを車で南下しました。

 実はこの頃の茨城県は、地震の被災地でありながら死亡者の数が20人程度だったこともあり、救助が東北3県に集中したため、支援物資がほとんど素通りする状況に追い込まれていました。

 ガソリンも手に入らず、鉄道の線路は地震で歪んだため運行再開のめどが立たず、陸の孤島と化していたのです。

 震災から一週間経ち、身動きもとれず食糧が果てるのを待つだけとなった茨城の窮状がネットで訴えられ、「マスコミで取り上げて欲しい」との声が寄せられました。

 私自身にもツイッターで訴えが直接届き始め、なんとか取材したいという思いを強くしていました。

 そして、潮来市の避難所に着いたとき、思いもよらぬことが起きました。

「テレビ朝日が来た!」

 避難所で暮らす方たちから拍手で迎えられたのです。

 実は被害現場でテレビの取材が歓迎されることはほとんどありません。

 しかし、この茨城県には特殊な事情がありました。地元には全国で唯一、地元の民放が無いのです。テレビ局はNHKの水戸支局だけ。民放を視るときは、キー局のものをそのまま受信していたのです。

 それはすなわち、民放ではキー局が取り上げなければ報道される機会が無いということになるのです。

 私達の番組が民放で初めてこの避難所を取り上げることになり、「東京からテレビの取材が来て、しかも全国ネットで放送してくれるんだから、助かった。」と感謝の言葉をいただきました。

 アナウンサーとして19年目を迎えた私でしたが、この時ほど、自分が誰かの役に立てる立場にいるのだと嬉しく思ったことはありません。

 「テレビで伝えて欲しいこと」を聞いてまわり、中には「テレビには出たくないけれど、『テレビの人』に話だけ聞いてもらいたい」といった方たちのお話にも耳を傾けるように努めました。

 その時、あるお婆さんが私に手招きをしました。その方の避難スペースに行くと、積み重ねてある毛布の中から何かを取り出して私に手渡すのです。

「お腹空いたでしょう。」

 手元を見ると、それはビニール袋のクシャクシャになったメロンパンでした。

「とんでもない。いただくワケにはいきません。」

 何度も渡そうとするお婆さん。

 ペコペコ頭を下げて辞退する私は涙をこらえるのに必死でした。

 この潮来市は物資の不足から食料品の買い出しができず、炊き出しも汁物のみという状況でした。このメロンパンはどれだけ貴重な食料であるか、お婆さんも判っているはずです。

 こんな状況でも自分たちの身よりも他人を思いやれる東北やこの茨城の愛すべき人たちを、私は守らなければならない。そう心に決めました。

 そして、その後私は壊れました。

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