企業・経営
お客の利便よりも社内のルールが大事?!マニュアル漬けの「コンプラ地獄」が
日本を滅ぼす

首相も社長も、リーダーが劣化したのはなぜか
経済産業省を訪問し、報道陣に対応する九州電力真部利応社長〔PHOTO〕gettyimages

 日本では、人の上に立つべきリーダー層の劣化が著しい。卑しい人すらいる。辞めると言いながら居座る菅直人首相がその代表格だ。九州電力の玄海原発を巡る「やらせメール」問題でも九電前副社長ら幹部がそれを黙認していたというから、我田引水のために身内を使って世論を歪める行為も卑しいと言えよう。

 経済産業省の現役キャリアの幹部が最近、自分の担当案件である半導体メーカーの再生に絡んで株式のインサイダー取引疑惑で強制捜査を受けたが、これも「役得」を利用したと見られても仕方なく、卑しい行為だ。

 九電の問題については、原子力発電の運転再開の可否が国民の大きな関心事となっている時期だけに悪質極まりない。こんなことをして、明るみに出れば、信頼を失うことが分かっていなかったとすれば、九電の幹部は相当に「大馬鹿」だ。あるいは、いつも同様のことをやっているから感覚が麻痺していたのだろうか。

 九電はこんな馬鹿げたことをするくせに、筆者の知人によると、取引先が5000円分くらいのビールをお中元に送ると、必ず幹部がそのビールを持って「ルール上、受け取れないので、すみません」と言ってわざわざ返品に来るという。たぶん、取引先から贈り物を受け取ることは社内規定などで明文化され、禁止されているのだろう。「やらせメール」を送っていていけないとはいくら何でも明文化されていないだろうから、送ったのだろうか? そうだとすれば、本当に付ける薬がない。

 日本の企業や組織はここ何年か「コンプライアンス強化」という美名の下、マニュアル類を整備してきたが、大きな不祥事は相次ぐ。単純に言えば、マニュアル類を整えただけで、欲や地位に目がくらんでやっていいことと悪いことの本質的な区分けを自分の頭でできない人が増えたからであろう。インサイダー取引なんてどんな理由があろうと絶対にやってはいけないことだが、それを法律作成にも関わるキャリア官僚がやること自体、ブラックジョークだ。

 また、「コンプライアンス強化」が、判断力を養うことの大きな妨げになっていることや、形だけ整えて実戦では役立たないマニュアル類を増やしたという嘆きを筆者はよく聞く。妨げならまだしも、思考停止状態になっているケースすらある。

 ある大手メーカーでは、課長が職場の人間関係に悩んでいた女性部下の相談に乗るために、「アフター5」に個別に話を聞こうとしたら、そのことを知った部長が「それはうちのコンプラ上はセクハラになる可能性がある」と言って中止させたという。

 筆者の経験でもこんなことがある。顔見知りの小さな携帯電話ショップで、海外出張の際に通話できるようにローミングの手続きをするのに、本人確認のために運転免許証が必要なのでそれを見せて手続きを終えた。ローミングした携帯を約1週間借りた後、いったん返却した。

 その2週間後にまた海外出張しなければならなかったが、再度手続きをする際には先日見せたばかりなので、免許証は不要だろうと思って持っていかなかったら、前回と同じ店員から「井上さん、免許証がないと社内ルール上手続きができません」と言われた。

「あなた私の名前を知っているので、もう本人確認できているではないですか」と言うと、「どうにかしたいのですが、ルール上できないんです」と言い張る。このやり取りが店内で1時間ほどあり、結局、免許証を家に取りに帰った。ささいなことではあるが、「コンプラ強化」が現場で判断することを奪っている一例と言えよう。

カラ出張防止にコンビニのレシートな大学

 宅配の受け取りでも、不在が多い場合、「これは貴重品ではないので、メーターボックスの中に入れておいてください。責任は一切問いませんので」と言うと、対応してくれる会社と絶対に対応してくれない会社がある。

 対応できない理由として「ルール上できません」を挙げる。実名を出すと、一番融通がきかないのが日本郵政であり、「上司に聞いてみます」と、同じことを2、3回言われ、違う上司から何回も電話がかかってきたことがある。その際に「お客の利便と会社のコンプラはどっちが大切か」と聞いたら、「コンプラ」と答えたので、これには空いた口が塞がらなかった。

 ある有名大学では規則上、出張すると、出張先のコンビニで買い物をしてレシートを提出しなければならない。だから買い物する用事がなくても出張先ではコンビニで何か買うことになる。カラ出張防止のためだが、レシートなんて店内に落ちているので、それを拾って送ってもらう人がいれば、どうなるのだろうか? こんなものは本質的な防止策ではない。

 日本では「規則」「コンプラ」などを言い訳に、本質的なことを「判断できない病」が蔓延していると思う。特に企業ではそれが国際競争力を落とす要因のひとつになっている気がしてならない。

 中国ビジネスでも日本の「コンプラ」が障害となっているケースもあるようだ。中国では「割り勘」という考えがあまりないが、日本の大企業幹部が中国の仕入れ先企業の幹部と会食をして「社内ルール上割り勘にしてもらえませんか」と言って、失笑を買ったという。

 だが、笑えない話もある。中国では交通法規上、1台のトレーラーに載せて運ぶことができる車の台数が決まっているが、どのトレーラーも構造自体、法定で定められた積み込める台数を上回っており、罰金を払って違反状態で運ぶことが現地の「常識」になっている。その理由は、公安(警察)当局が罰金を収入源としてあてにしているからである。ある日系企業では、この「罰金」を予算化したら、日本の本社から「コンプラ上問題がある」と指摘を受け、現地は困ってしまった。

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