「新メディアの実験場」サンディエゴで活躍する調査報道専門NPO
地元政界の腐敗を暴くスクープを連発
ボイス・オブ・サンディエゴの編集部内

 メキシコと国境を接する南カリフォルニア・サンディエゴ。唯一の地元紙サンディエゴ・ユニオン・トリビューン(SDUT)の大リストラを背景に人材が流動化し、新興メディアが続々と誕生している。いわば「新メディアの実験場」だ。

 これまで3回にわたって紹介してきた民間非営利団体(NPO)「ウォッチドッグ・インスティテュート(WI)」もそんな新メディアの1つ。いずれも小所帯で、財政基盤は不安定とはいえ、弱体化したSDUTを補完するようになってきた。SDUTによる1紙独占体制は徐々に崩れつつある。

 なかでも注目株は「ボイス・オブ・サンディエゴ(VOSD)」だ。NPOの形態を取るオンライン新聞のパイオニアであり、「これこそジャーナリズムの末来形」との見方もある。事実、VOSDが誕生した2005年以降、まるで雨後のたけのこのように、同紙をモデルにした新メディアがアメリカ各地に続々と生まれている。

 VOSDを詳しく紹介する前に、サンディエゴの新聞小史を振り返っておこう。ここにアメリカ新聞業界激変の縮図があるからだ。

 人口130万人台でカリフォルニア第2の都市サンディエゴ。日本の川崎市と同じ規模の同市では、かつて3紙が競い合い、地元ニュースを追いかけていた。

 朝刊紙サンディエゴ・ユニオンと夕刊紙サンディエゴ・トリビューンは地元紙として100年来のライバル関係にあった。前者は1868年、後者は1895年設立の名門地方紙。後者はピュリツァー賞を2度受賞したこともあった。

ボイス・オブ・サンディエゴが受賞した調査報道賞

 これら2紙に加えて、カリフォルニア第1の都市ロサンゼルスを本拠にする有力紙ロサンゼルス・タイムズが強力なサンディエゴ支局を維持していた。

 1978年開設のサンディエゴ支局では、50人近い記者やデスク、カメラマンを雇い、サンディエゴ版を発行していた。

 1992年、発行部数27万部のサンディエゴ・ユニオンと同12万部のサンディエゴ・トリビューンは合併し、SDUTになった。それから間もなくして、ロサンゼルス・タイムズがサンディエゴ支局を閉鎖し、発行部数6万部のサンディエゴ版を廃刊にした。

 サンディエゴはSDUTの1紙独占体制になったわけだ。1紙独占になれば競争がなくなり、取材が甘くなる。他紙にスクープされる恐れがないなら、記者は何のプレッシャーも感じない。つまり、死に物狂いで特ダネを取ろうとしなくなる。

1紙独占体制を打ち破ったオンライン新聞

 13年後の2005年、1紙独占体制に風穴が開いた。新しい日刊紙としてVOSDが創刊されたのだ。

 とはいっても、VOSDは従来型の日刊紙ではない。物理的に紙を使って印刷・配達される新聞ではなく、インターネット上で発行されるオンライン新聞だ。しかも経営形態は営利の株式会社ではなく、NPOである。

 VOSD創刊で重要な役割を果たしたのが、サンディエゴのベンチャーキャピタリスト、バズ・ウーリーだ。

 1紙独占体制下のサンディエゴで、ウーリーは怒り心頭に発していた。市議が地元ストリップクラブのオーナーからわいろを受け取るなど、市政をめぐるスキャンダルが相次いでいた。「地元メディアは市政をきちんとチェックしているか」と思わずにはいられなかった。

 特に我慢ならなかったのが、市を破綻の瀬戸際にまで追い込んだずさんな年金管理だった。市の年金財政の大幅悪化は調べればすぐに分かることだったにもかかわらず、SDUTをはじめ地元メディアは何年にもわたってほとんど何も報道しなかった。

 年金問題が放置されたのは、チェック役であるべきマスコミが本来の仕事をしていなかったから――ウーリーはこう確信した。

 同じ時期、SDUTのベテラン編集者、ニール・モーガンが解雇された。『ドクター・スースの素顔――世界で愛されるアメリカの絵本作家』をはじめ多数の著作を持つモーガンは、同紙の看板コラムニストでもあった。

 モーガンはウーリーと会い、意気投合した。

「サンディエゴ地域では、市政を監視すべき調査報道が圧倒的に欠けている。必要な情報や分析をわれわれが提供することで、市民の政治参加を促さなければならない。そのためにネット上に新しい新聞を立ち上げよう」

 ウーリーはコンサルタントを雇い、新しいオンライン新聞が実現可能かどうか調べた。すると、「営利企業として利益を出すのは非常に難しい。NPOとして発足し、収益を多様化すべき」との結論を得た。

 このようにして2005年2月、サンディエゴ地域のニュースを専門に扱う調査報道NPO、VOSDが誕生した。

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