『バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある』
著者:アダム・ペネンバーグ 翻訳:中山宥・後編

『バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある』
著者:Adam L. Penenberg(アダム・ペネンバーグ)
翻訳:中山宥
講談社
定価1785円(税込)
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◎担当編集者よりの紹介◎

 ユーチューブやミクシィ、フェイスブック、ツイッターなど、いま成功している「ウェブ2.0企業」には、すべて共通した"ある秘密"がある。「バイラル・ループ」と呼ばれる現象がビジネス戦略に組み込まれているのだ。

  これはモノやサービスが人の口コミや紹介を通じて、"ウィルスのように伝播していく現象"のことである

 誰も読んでくれる人などいないとわかっていて、ツイッターでつぶやく人はいないだろう。知り合いがいないのに、ミクシィに登録する人もいないはずだ。本当に気に入り、利用したいと考えたモノやサービスなら、消費者は自ずと周りの人に薦めるーー。こうして、利用者自身が気に入ったモノやサービスを積極的に紹介していく「バイラル・ループ」が拡がり、かつてないスピードで企業規模が急拡大しているのである。

 では、いかにして"感染"するビジネスは生み出されたのか?

 ニューヨーク大学准教授のアダム・ペネンバーグは、「バイラル・ループ」を利用して世界的企業となった企業をいくつも取材し、その成功物語を一冊の本にまとめた。ウェブメールサービスの「ホットメール」やオークションサイト最大手の「イーベイ」のほか、容器メーカーの「タッパーウェア」がいかにしてシェアを拡大したかや、米オバマ大統領当選の背景までをつぶさに考察、その秘密に迫っている。

 「バイラル・ループ」にいち早く気付いた起業家や投資家、経営者たちがいかにしてそれを経営に活かしたか。本書は彼らの証言を元に、各企業の急成長ぶりを活写している。

 ベンチャー企業、NPOや多国籍企業など、組織の形態や業種を問わず、ITテクノロジーの力を最大限に引き出す「バイラル・ループ」を企業戦略に組み込むことで、飛躍的な成長を望めるだろう。ライバルに差をつけるための次代のマーケティング戦略、「バイラル・ループ」。限られたリソースで確かなパフォーマンスを狙う現代のビジネスパーソン必読の書だ。

[第9章] ブログ時代のバイラル・ビジネス
どうすればブログの大流行に乗ってスピード成長を手にできるのか

 ペイパルがサービス開始した時点では、米国内でインターネットを利用する家庭のうち、10%未満しかブロードバンドを持っていなかった。2004年2月になると、割合は30%まで上昇し、08年には70%に近づいた。

 高速アクセスはデスクトップ・パソコンだけのものではない。ブロードバンドに関しては、モバイル機器が最も急成長を遂げており、バイラル大平原のすそ野を広げている。

 ウィキペディア、写真・動画共有サイト、SNS、ブログなどのかたちで、リンク、共存、相互作用を生じながら、モバイル・ユーザーの数は、ブロードバンドの普及を上回る速さで増え続け、03年以来、"5ヵ月ごとに倍増"というペースを保ってきた。

 とくにブログの領域は、全体としてひとまとまりの活気あるバイラル・ネットワークを形成しており、雨後の竹の子のようにきりなく増殖するブログの数々は、どれ一つとっても、個人による情報発信がいかに容易になったかを示している。

 ある意味、ブログの世界は、オープンソース・コードと似たような発展を遂げているともいえるだろう。オープンソースの場合、多数のプログラマーがゆるやかに結びついて、ソフトウェアに思い思いの改良を加えて、共有する。

 ブログのほうは効率重視ではないから、知的な寄り道もあれば、気どった文章、辛辣な応酬、実りのない議論、トラブルの調停、たんなる悪ふざけなども大量にある。ともすれば、口汚く乱暴で(幸いにして)短い書き込みがあふれがちで、「人間の自然状態は闘争状態である」と唱えたトマス・ホッブズの正しさを証明するかのようだ。

 しかし、ブログの世界はアイディアを競う場でもあり、「秀逸なものが一世を風靡する」という、純然たる実力主義で成りたっている。たとえば、08年の米大統領選挙の際、ありとあらゆる政治的な立場の良質なブログが数多く出現して、従来メディアと論評を競いあった。

 新聞や雑誌にまさるとも劣らない内容がめだち、「ネイト・シルバー」「アンドリュー・サリバン」「デイリー・コス」「タウン・ホール」「ポリティコ」「ハフィントン・ポスト」などは、鋭い分析を掲載するにとどまらず、ときにはスクープ記事をものにした。総じて、04年や00年の大統領選挙時よりも、はるかに洞察力に満ちていた。

 インターネット接続の環境さえあれば、ブログを通じて、誰でも簡単に他人の関心を引くことができる。そのため、ブログの世界では、さまざまな概念が提示され、批判、検討、修正、追加、淘汰などを経て、最終的にはオンライン社会全体のきわめてすぐれた要素だけが結晶化して残る。

 デジタル分野の才能に恵まれた者にとっては、資本主義的な自由市場に近い。情報がいわば通貨だ。しかも、われわれ誰もが、眺めるだけでなく参加でき、リアルタイムにコミュニケーションを図れる。当初、ブログは主要メディアの落ち穂拾いのような役割しか果たしていなかったが、いまでは、主役の座を奪うことさえある。

 05年7月のロンドン同時爆破テロを思い起こしてもらいたい。連邦通信委員会の元会長、マイケル・K・パウエルは、テレビの報道を見ているうち、貴重な写真のほとんどは、通信社のプロ・カメラマンが撮ったものではない、と気づいた。現場に居合わせた一般人たちが、携帯電話やデジタルカメラを使って惨事を記録にとどめたのだった。パウエルは語る。