「改革派事務局長」が次々に追い出される大阪産業大学の迷走
大学改革への道は険しい

 関西の中堅私学、大阪産業大学で、教育そっちのけの闘争が繰り広げられている。

 その構図は「改革派」対「守旧派」。大学を改革しようとする人材をそれに反対する勢力が次々に追い出しにかかっているのだ。

 今年5月31日、大阪産業大の常務理事で事務局長である重里(しげさと)俊行・経営学部教授が突如解任された。解任の理由は、今年4月27日にあった労働組合との団体交渉で、同大学に設置している中国文化の普及組織「孔子学院」について、重里氏が「文化スパイ機関」と不適切な発言をしたためだ。

 ただ、これは表向きの解任理由と見られる。後日、重里氏は発言を撤回し、謝罪しているのにも関わらず、一方的に処分がおりたからだ。重里氏は現在、この解任は不当だとして弁護士を通じて争う構えを見せている。

 解任の本質的な原因は、大学の経営を巡る対立にある。重里氏が、法人運営の実務の責任者として教育改革を仕掛けてきたことに、現場である教授陣からの反発があったため、ささいな「失言」で揚足を取ったのだ。

 重里氏は歯に衣を着せぬ発言をする傾向にあり、大学教授らしからぬ豪快なところがあるため、誤解を受けやすいこともあるが、学校法人の役員として当然の改革を行おうとしていた。

 まず、重里氏は教員に対してテストの採点状況や成績評価の公開を行うよう求めた。その理由は、大阪産業大は4年でストレートできる学生の割合が極めて低く、一部の教員が「手抜き」に近いような教育をしていると見られるためだ。多くの私学で成績評価(得点分布)はホームページなどで公開されているが、大阪産業大は公開していない。景気低迷によって、保護者の家計も楽ではなく、留年によって経済的な負担も増していた。さらに「2年前には2回留年した学生が自殺に追い込まれました。学校の教育姿勢が若い学生を死に追い込んだにも等しい」(ある教員)といった声も出ていた。

 全国の大学でのストレート卒業率は平均で85%程度と見られるが、大阪産業大の2006年度入学生のストレート卒業率は64%で、50%台の学科も多い。非公開の内部資料である教員別の不合格者率及び未受験率を見ても、教養部のある教授の講義は86・5%が不合格及び未受験だ。この率だと、聴講生10人のうち単位を取得できるのが2人にも満たないということになり、これでは教育の体を成していない。教養部の教員の不合格率が高く、これが卒業できないネックとなっている。

 「定員を維持するために学力の低い生徒を取るからこうなる。これは理事会の責任だ」と言って、自分の責任は棚に上げ、講義の仕方を工夫したり、補習などを行ったりする教員は少ないという。

 なぜか4年前から再試験も廃止となっているうえ、救済措置としてレポートを課すなどの対応を取るケースも少ないという。教員の独善的な姿勢が垣間見え、悪いのは大学の経営者や学生であり、我々は悪くないと言わんばかりに、その主張をビラにして学内で配っている教員もいる。改革派の教員からは「ビラを作る暇があったら、講義の内容をよくする時間に使っては」といった指摘もある。

 こうした現状を少しでも変えようと、重里氏は考えたのだ。さらに、大学の赤字財政へもメスを入れようとしたことが一部教員の反発を食らった。

 前述した「孔子学院」はJR大阪駅前の一等地にあるビル内に設置されているが、年間の家賃が約3600万円かかっている。学校法人が所有する別のビルに移転すれば、家賃が不要になるため、重里氏が中心になって移転計画を進めようとしたところ、大反対された。こうした改革路線が気に食わない守旧派の教員に、重里氏は足下を掬われたのである。

 実は、この大阪産業大の事務局長職は「鬼門」なのだ。この2年間で3人交代している。重里氏解任後は事務局長不在のままである。

 重里氏の前任者である牧本英男氏は在任5カ月で依願退職し、その前任者の堤晶子氏も4カ月で解任され、退職した。大阪産業大は傘下に大阪桐蔭高校を持つ。日本ハムの中田翔選手の母校であり、高校野球が強いことで全国でも有名だが、進学校でもある。文武両道路線を成功させた一人が、堤氏であり、その手腕を買われ、法人の事務局長に着任し、学園改革を推進しようとしたが、労組などから猛反発を食らって解任された。「女子学生にセクハラし、しかも講義も休講だらけの教員を懲戒処分にしようとして、労組から反発を受け、堤氏を抜擢した当時の理事長も最終的には労組側について堤氏を裏切った」(大阪産業大関係者)という。

大学のガバナンスをどうするのか

 大阪産業大はごたごた続きで、資産運用でも失敗し、前理事長はその責任を取って09年3月末に辞任した。同年4月1日付で、関西の名門企業、クボタの社長・会長を務めた土橋芳邦氏が新理事長に就任。同時に重里氏が事務局長に就いていた。民間企業のトップ経験者らしく、合理的で素早い意思決定を大学経営にも活かすはずだったが、今のところその片鱗は見えない。

 この大阪産業大の問題は、一地方大学の内紛ではない、と筆者は考える。大学をどのようにガバナンスしていくかという大きな課題を内包している。08年に1年間、「月刊現代」の取材で、立命館大、早稲田大、慶応大を取材したが、経営VS現場(教員)といった対立構造がどこの大学でもあった。端的に言ってしまえば、筆者には、世間知らずの教員が既得権を守るためにわがままを言っているようにも映った。

 少子高齢化などにより収入が細る大学。学力が低下し、コミュニケーション能力も劣る学生。大学内には様々な課題があるが、ひとつ言えることは、若い人には「潜在能力」があるということである。大学の教員には、この「潜在能力」が開花するように導いていく役割も課せられていると思う。それを忘れて既得権だけにこだわるようでは、教育者とは言えない。

 実は、先生たちの既得権をぶっ壊したユニークな大学がある。次回はその大学の話を紹介する。

    
 

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