どちらも「雇用」は期待できない菅氏、小沢氏の「政権構想」
正社員の固定化が結局は雇用を減らすのだが・・・

 民主党の代表選挙が始まり、連日大量のニュースが流れている。

 根本的に「反小沢」と思われる大手新聞は、民主党の代表選挙であるにもかかわらず一般人を相手に頻繁な世論調査を行い、「首相にふさわしい人」としては菅氏が小沢氏を圧倒的にリードしているとするといった、小沢氏に厳しい情報を流している。

 一方、一部のネット関係のメディアでは、熱狂的な小沢氏支持者が集中的に支持を表明している調査やカキコミがある。選挙情勢は今一つ分かりにくい。

 ただ、菅氏への支持には、「頻繁に首相を代えるのは良くない」という判断がかなり混じっているものと思われる。菅氏と小沢氏の、政策と人物に関する国民一般の評価が、大新聞の調査のような一方的な結果なのかどうかについては、少なからぬ疑問を感じる。

 とはいえ、菅氏が首相に就任した瞬間の高支持率は、相当部分が、菅氏の「小沢斬り」への喝采を含んだものだった。小沢氏への不人気も相当なものではある。

 もっとも、もともと民主党の代表を決める選挙であり、一般国民の支持の多寡は本来的に大きな問題ではない。民主党の党員・支持者が良しと思う政策と人物を選べばいいし、9月14日になれば結果は分かる。

 両候補は、今回の選挙戦の主張の上では、経済を重視しているようだ。

 特に菅氏は、「一に『雇用』、二に『雇用』、三にも『雇用』で取り組みます」(『日本経済新聞』9月2日朝刊。民主代表選「政権構想全文」から)と雇用を重視する立場を鮮明にしている。

 しかし、菅氏が雇用を拡大するために何をしようとしているのかは、今一つ明らかではない。

 政権構想から見出しを拾うと、冒頭の「『雇用創造』と『不安解消』で元気な日本復活を目指す」で雇用の重要性を訴えた後は、【熟議の民主主義で難局を打開する~「政局」より「政策」で臨む】、「■クリーンでオープンな民主党の原点へ」、「1、適材適所による全員参加で『挙党態勢』の民主党へ」、「2、足腰の強い地方組織に向けた支援」、3「クリーンな政治に向けた改革」、とおそらくは小沢氏の幹事長時代の党運営への批判を意識した項目をさんざん並べた後に、「■『雇用創造』と『不安解消』を最優先に政策実現を本格稼働」という見出しがやっと登場する構成だ。

 首相就任後3ヵ月とはいえ、最優先と思うテーマに対してこれまでどうして「本格稼働」していなかったのかは不明だが、「総理大臣が主導し、最優先で取り組みます」と言う割りに、今後の施策は具体性を欠く。

 関係のありそうな単語を拾うと、「新成長戦略推進実現会議」、「医療・介護」、「2020年の温暖化ガス25%を見据えた環境分野」、「新卒者雇用緊急プログラム」、「日本国内投資促進プログラム」といった言葉がぱらぱらと載っている程度だ。

 たとえば、新卒者の就職についてキャリアカウンセラーの数を増やすことがまったく無駄だとまでは言わないが、必要な施策なのか。企業の側で採用したい学生が見つからない状況が広範囲に拡がっているならハローワーク活動の充実が職と人のマッチングを促進して雇用拡大につながるかも知れない。

 しかし、現在は企業側で「正社員の職」自体を増やすことに慎重なのが問題なのだから、対策のピントが合っていない。喩えて言うなら、大学の定員が圧倒的に足りない状況に対して予備校の教師を倍増しても入試地獄が解消しないようなものだ。

 医療・介護・環境はよく名前が出てくる雇用創出期待分野だ。しかし菅氏は、医療の株式会社化を認めるわけでも、報酬が上がるように介護の規制を取り払うわけでもない。環境のために政府が幾ら投資すると言っている訳でもない。

 菅氏の「政権構想」は早々に財政改革に話題が移る。

「財政健全化からは一歩も逃げることなく取り組みます。社会保障改革は財源と一体で議論し、その中で消費税を含む税制の抜本改革についても検討します」とある。皮肉なことに、こちらのほうには、消費税率を上げることなく年金その他の社会保障の手直しはしないぞ、という具体的な決意が滲み出ている。

 小沢氏にも言えることだが、雇用を増やしたいなら、雇用する側、つまり企業にとって、何らかの意味でより有利な環境を用意することが決定的に重要だ。

 たとえば、製造業も含めて、派遣労働は、規制するのではなく規制を撤廃する方が雇用自体は増えるだろう。最低賃金などという規制が無いほうが労働の種類も雇用者数も拡大が望めるだろう。

 もっと踏み込むなら、企業は正社員の雇用の固定性が負担になっていて、「不況期の需要に合わせた採用」程度に採用を慎重化せざるを得ない。高コストな余剰人員を整理して低コストな若年労働者を採用する(たぶん、整理した人数よりも多く採用できる)ことが経済合理的であっても、それが実現できない。労働に関する規制緩和こそが、「雇用」の数も質も改善するはずなのだが、菅氏の政策にはそれがまったく見えない。

 氏の政権構想にある、「雇用創造」は、本当は「雇用想像」の変換ミスではないかと推察する。

 対する小沢氏はどうか。

 「政権構想」で較べる限り、小沢氏の雇用・経済対策の方が、菅氏の政策よりも随分具体的ではある。

「平成22年度予算に計上している2兆円(債務負担行為を含む)を直ちに執行」、「住宅ローン供給の円滑化」、「エコポイントの延長」、「学校・病院の耐震化」、市場介入を含む円高対策、「高速道路の建設」などの項目が並び、菅氏も官僚もひどく冷たい「子ども手当」についても、子ども一人当たり月額で来年度2万円、再来年度は前回総選挙マニフェスト満額の2万6千万円を約束する。

 今さら高速道路とは少し驚くが、「地方の雇用を安定的に増やし、地方経済を活性化させる」ということらしい。また、エコポイントは効果が一巡しつつあるし、特定業界への補助金である点でフェアではない。

 また、敢えて探しても、円高対策の介入が金融政策につながる可能性があるとしても、明確にデフレ対策を打ち出していない点については、菅氏の政策ともども不満が残る。

 こうした難点はあるが、菅氏が言及しない来年度予算の大幅な組み替えも含めて、直ちに需要追加的な政策に舵を切るという方針がはっきりしている点は、チャレンジャーの立場を割り引いても積極性が表れている。

 ちなみに、子ども手当をはじめとする財政支出を伴う政策の財源について不明確だとの批判が新聞を中心に盛んだが、デフレの状況を考えると、来年度、再来年度は赤字国債の追加発行で全く構わない。その後、この2年の間に、総選挙時のマニフェストが言う財政支出のムダの削減を行って、その後の恒久的な財源とすればいい。

 正直なところ、目下のやる気のない来年度予算を組み直すと言っている一点だけを以ても、経済政策は小沢氏の方がベターだ、と思っていた。

第三の候補が出てこない民主党の人材不足

 ところが、3日のテレビ朝日の番組での発言を拾うと、小沢氏も雇用の問題を理解していないことが明らかになった。

 小沢氏は、「大企業がもうかった分を社員や下請けに還元するという意味での法人税を下げるという論点は悪くない」と述べた。この発言は、法人税率を下げる場合、大企業は従業員の給与などをより手厚くすべきだとの認識を示したものと解釈できよう。

 しかし、せっかく法人税が下がって、日本のオフィス立地の実質的高コスト要因の一つが解消されても、これを社員や下請けに還元するのだとすれば、日本でビジネスを行うことが有利にならない。

 現実的には、「社員(や下請け)に還元」する方法を法律に明記することが技術的に難しいので、企業は法人税の引き下げを、社員に還元するような顔をして、タダ食いすることになるのだろうから、小沢氏が法人税率の引き下げに反対しなければ十分なのかも知れないが、「論点」としてはお粗末だ。

 また、同じ番組で、小沢氏は「非正規社員と正規社員の割合をこうしろ、という規制をしてもいい」と言って、正社員の比率を高める政策を進める考えを示した。これは、雇用の不自由化そのものだから、日本の雇用を減らす方向に作用する公算が大きい。

 小沢氏の二つの発言は、大企業の社員、それも正社員にとってのメリットにつながっている。代表選に当たって、民主党の大きな支持母体である連合の気に入られようとしたのだろうか。

 経済政策を総合的に見ると、筆者個人の評価としては、菅氏よりも小沢氏が「まし」だとは思うが、菅氏ばかりでなく小沢氏も、雇用にとっての真の問題が何なのか、つまり、日本でビジネスを行うことの何が不利なのかという根本問題を理解していないように思う。

 筆者は民主党員ではないが、菅氏も小沢氏も、政策にはツッコミ所満載なのだから、出来れば若手で、両方をバッサリ斬るような弁舌を有する第三の候補が出ても良かったのではないか。現在のような情勢なら、立候補して損はなかろうと思うのだが、誰も出てこない。リーダー候補のタマ不足は、民主党にとって大きな不安材料だ。

 それにしても、自民党政権時代も含めて、思うことだが、国のトップを国民が直接選ぶことが出来ないわが国の仕組みは、もう少し何とかならないものか。せめて、総選挙から時間を置いて首相が交代した場合、速やかに総選挙を行うことが政治的な習慣になるといいと思う。

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