雑誌
地デジのデタラメ 第2回
今年度だけで870億円!「携帯電話1台から電波
利用料250円徴収」そのカネが地デジに回さ
れている
積み重ねられたブラウン管。この工場に運び込まれてくるアナログテレビは不法投棄されたものもある(左)人間の手作業でボディから外されたブラウン管はこの後、加熱炉に入れられ、パネルが分離される(右) 〔PHOTO〕谷本潤一

第1回 はこちらをご覧ください。

[取材・文: 亀井洋志(ジャーナリスト)]

 まだ見ることができるテレビを買い換えさせ、リサイクル料を徴収する—。国による強要が、ブラウン管テレビの不法投棄を招いている。さらに、私たちの携帯代金からも、電波利用料という名目での"電波税"が徴収されていた。

 テレビ本体から取り外されたブラウン管が、うずたかく積まれている。解体時に出る廃プラスティックや基板が、仕分けられていく。ブラウン管を補強する鉄製のバンドが、加熱されて取り外される。加熱炉はブラウン管のガラスが割れないように、随時、温度が変えられる。外気温もさることながら、工場内は暑い。

 ブラウン管のリサイクルを専門としている「ホンジョー」(本社・京都府城陽市)のリサイクル工場を訪ね、工程を見学させてもらった。

 ブラウン管は、画面部分の「パネル」と、背後にある漏斗状の「ファンネルガラス」でできている。そして、両者を接合しているのが「フリットガラス」だ。パネル以外のガラスには、有害な重金属である鉛が含まれている。テレビから放出されるX線を遮るためだ。最も高濃度で鉛を含有(約70%)しているのが、「フリットガラス」である。

 ホンジョーの独特の技術は、ブラウン管を分離する際「湿式分離方式」を採用していることだという。フリットガラスの鉛を、化学薬品の液体で溶かして完全に除去し、ガラス組成だけに戻す。このため作業中に粉塵が発生することもなく、効率が高まるので年間100万台の処理が可能だ。

破砕された、鉛を含むファンネルガラスの山。テレビが不法投棄されれば水溶性の強い鉛による環境への悪影響も懸念される

 分離されたパネルとファンネルガラスは、洗浄に回った後、破砕される。工場の一角に砕かれた破片(ガラスカレット)の山はおよそ250t。ブラウン管テレビ2万台分になる。この会社は、家電メーカー系列の工場ではない。

 そのため、自治体や公共施設から廃棄されたテレビやパソコンモニターなどを主に取り扱う。自治体が回収した不法投棄テレビが持ち込まれることも多いという。

 来年7月24日の地上デジタル放送への完全移行を控え、アナログテレビの大量廃棄が予想される。多くの家電メーカーのリサイクル工場では新たな設備投資を余儀なくされ、移行直前には増員が必要になる。

 そして、道端などに不法投棄されるアナログテレビも増えている。不法投棄の増加は、"誤った国策"の遂行過程で起きているモラルハザードと言える。

ブラウン管リサイクルの問題点

 地デジへの完全移行が、拙速に進められている。来年7月には現行のアナログ放送が全面停止され、低所得層を中心にテレビが見られなくなる世帯が続出することが懸念される。

 テレビのデジタル化は世界の趨勢であり、メリットは理解できる。しかし、日本の地デジ移行には施策に問題が多くあるうえ、スケジュールがあまりにも性急である。その結果、大量の"地デジ難民"を発生させてしまいかねない。

 まだ使えるはずのテレビを見られなくするのだから、憲法に規定された「財産権」の侵害である。総務省は生活保護世帯を対象に簡易チューナーを無償配布しているが、前号で述べたようにその"救済策"がうまく機能しているとは言い難い。

 アメリカではアナログ停波時、チューナー代として、希望する世帯に一律40ドル相当のクーポン券を2枚まで交付している。だが、日本ではそのような施策は取られていない。後述するが、携帯電話からも徴収する「電波利用料」を地デジ対策に使うことも、歪んだ支出方法だ。

 移行日の根拠は、'01年7月の改正電波法の告示から10年後ということになっている。10年間あれば視聴者の地デジ準備も整うだろう、との判断だ。しかし、3大都市圏で地デジ放送がスタートしたのは'03年12月のこと。全国に広がったのは、'06年12月からだ。視聴者にとって、準備期間は実質5年足らずでしかない。

 少なくともデジタル放送開始から10年のスパンがあれば、テレビの買い換えも自然なサイクルで進んでいったはずである。それを5年弱にしたものだから、今後、アナログテレビが一気に大量廃棄される事態を迎えることになる。

 日本の全世帯数は約5000万世帯で、内閣府の『消費者動向調査』から換算すると、国内にはおよそ1億2000万~1億3000万台のテレビがあるとされる。つまり、一世帯当たり平均2.5台のテレビを所有していることになる。

 家電・電子機器メーカーの業界団体「電子情報技術産業協会(JEITA)」によれば、テレビの現在の普及台数は約1億台。内閣府調査に比べるとやや少ないが、うちアナログテレビは「出荷台数と平均使用年数」で推計すると、約4020万台になるという。'11年の回収台数は約1318万台と見込んでいる。'08年の回収台数509万台と比べて、この1~2年は倍以上の処理が必要となる。

 当然、各家電メーカーのリサイクル工場(全国49施設)は対応に追われることになる。JEITAでは、人員増と稼働時間延長で約1800万台まで処理可能としているが、果たして目論見通りにいくかどうか。

 問題は処理能力だけではない。アナログテレビの重量は、ブラウン管ガラスが約60%を占め、ブラウン管ガラスを細かく粉砕した前述のガラスカレットが、新たに製造されるブラウン管ガラスの原料として使われリサイクルされる。

 国内では、アナログテレビの生産がすでに終了しているので、需要は専ら海外となるが、海外でも薄型テレビへの転換が加速している。問題なのは、ブラウン管ガラスに鉛が含まれているため、建設資材など他の資源として転用が困難な点だ。

 国立環境研究所の循環型社会・廃棄物研究センターの主任研究員、肴倉(さかなくら)宏史氏が解説する。

「ブラウン管ガラスだけでなく、鉛は基板のハンダにも使われています。鉛は水に溶けやすく、山林や路上に不法投棄されて雨が降れば、土壌汚染につながることになります。海外での需要が減り、将来的には管理型の埋め立てや鉛を精錬することも視野に入れていかなければなりません。ただし、埋め立てでの最終処分には、多くの課題があります」

 加えて、前述した不法投棄の問題がある。'01年に施行された家電リサイクル法によって、家電4製品(テレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機)についてリサイクルが義務付けられた。メーカーや小売店などに回収、運搬、リサイクルが課せられる一方、消費者は家電を廃棄する際、料金を課されることになった(アナログテレビの場合、一台に数千円程度の費用がかかる)。

 このため法施行後、数年間は不法投棄が激増する結果となった。ここ5年ほどは減少傾向にあったが、テレビに限っては'07年度6万1072台から'08年度6万3892台と、逆に増えてしまっている。来年7月のアナログ停波に向けて、今後もさらにテレビの不法投棄が増加する恐れが十分考えられる。性急な地デジ移行が、環境問題にまで波及しているのだ。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら