川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」

「感動的演説」のもと脱原発法案が可決したドイツで、「日本の高円寺デモは政治的圧力にならない」とクールに切り捨てられた理由

2011年07月08日(金) 川口マーン惠美
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SPDの党首ガブリエル〔PHOTO〕gettyimages

 2011年6月30日、ベルリン。ついに脱原発法が連邦議会で可決された。左翼党を除いたすべての党の議員が団結し、30年来の戦いに終止符を打ったのだ。議決の前に行われた各党代表の演説はそれぞれに象徴的で、外国人である私が見ても、どこか感動的な光景だった。誰の胸にも様々な感慨がこみ上げていたのだと思う。

 まず、政府を代表してCDU(キリスト教民主同盟)の環境大臣ロットゲン: 「脱原発は革命」であり、「本日はドイツ国にとって、まことに佳き日」、「脱原発は国民全員の共同プロジェクト」、「達成する国があるとしたらそれはドイツだと世界中が注目している」、「経済的にも採算が取れ、環境のためにも大いに貢献でき・・・」などなど、自画自賛が満載だ。

 去年の秋に、メルケル首相とともに、原発の稼働年数延長を決定したことなど、すっかり忘れてしまったらしい。ハレの日なので多少の勇み足は仕方ないが、どうにも我慢ならないのがSPD(社民党)だろう。

 SPDはCDUと並ぶ大きな国民政党で、戦後うまく釣り合いをとりながら交互に政権を司ってきたが、エネルギー政策だけはまったく相いれず、CDUは電力会社寄り、SPDは脱原発派。過去、常に激しい応酬を繰り広げてきた。

 そのSPDの党首ガブリエル: 「我々は信条により脱原発法を推進する。あなたは権力を保持するためだ!」とメルケル首相を激しく非難。彼から見れば、長年ずっと"間違ったこと"を主張してきたCDUという党が一気に豹変して、今、脱原発を高らかに唱えているということになる。

 過去に環境大臣も務めたガブリエル、「脱原発は我々のものだ」と、とりわけ自分たちの功績を強調するのは無理もない。脱原発法の制定は、SPD政権の下、どんなにか自らの手でやり遂げたかったことだろう。

冷静だった緑の党

 副首相、兼、経済技術大臣リョスラー: ガブリエルがメルケル首相に向かって雨あられのように発した攻撃に対して応戦に立ったのは、まだ38歳のFDP(自民党・現在、連立与党)の党首だ。ベトナム戦争の孤児で、赤ん坊の時にドイツの夫婦に貰われたというちょっと変わった経歴の持ち主だが、優秀で、しかも可愛らしく、特に女性のあいだで人気上昇中。首相が女性だと、こういう人選がスムーズに行われて、大変よろしい。

 その彼がエネルギッシュに、「現在の与党が、自然エネルギーへの移行と送電の拡大の前提条件を整えた。これにより、脱原発が産業に与える打撃が大幅に軽減される。当時、SPDと緑の党が怠ったことだ!」と反撃したが、野党のヤジにかなり遮られてしまった。でも、若い彼はニコニコしていて、それほど気に病んでいるふうはない。脱原発法が議会を通過することは、どのみち分かっている。

 緑の党幹部キューナスト: 彼女は常に激しく敵を糾弾する。怒鳴るようにして攻撃している姿しか見たことがない。おそらく笑顔は、支持者の集まりの時のために取ってあるのだろう。その彼女が言った。「30年前、差別され、犯罪者扱いされた運動が、今日、達成される」。苦虫を噛み潰したような表情はいつもと変わらなかったが、演台に両肘を突くように前かがみになった彼女の声が、一瞬詰まった。ちょっと感動的な場面だった。

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