余裕の小沢一郎が『公約』に仕掛けた「みんなの党」への秋波
いまさら財務省批判を言い出す菅首相には唖然

 民主党代表選は菅直人首相と小沢一郎前幹事長の全面対決になった。

 二人の共同会見(9月1日と2日)を聞く限り、焦りの色が濃い菅に対して、余裕の小沢という印象が強い。ずばり言えば、菅はどうも足が地についていないのである。

 たとえば、菅は「(小沢氏も)代表、総理になりたいのであれば、(政治とカネについて)しっかりとした説明が必要」とか「率直に言って、国会の予算委員会に座っている場面が想像できない」などと盛んに小沢を挑発した。

 菅は現職総理である。その総理の座をめぐって、自分が戦う相手に対して「総理になりたいのであれば・・・」などという言い方をすること自体、いささか常識に欠けている。

 たとえば、社長が次期社長候補に対して「お前が社長になりたいなら・・・」などと言うだろうか。そんな言い方をする社長は完全に「上から目線」である。

 どこかの社長人事のように、小沢は菅の指名を受けて次のトップになるわけではない。選挙で戦うのだ。そのへんの感覚がずれている。小沢にすれば「あんたに言われる話ではないよ」と思っただろう。

 菅の挑発に対して、小沢は「特別、心を入れ替えて、というつもりはない」と笑って受け流した。「自分は先任の総理であり、小沢よりも格上」と高飛車に出た菅に対して、小沢のシブさがにじみ出た場面だった。

 肝心の政策でも、いかにも軽さを感じさせる発言があった。

 菅は「財務省こそ野放図な財政を放置してきた張本人であり、財務省主導を改めなければならないというのが、私の政権の眼目だ」と述べた。

 おいおい。本当か。こういう発言を聞くと、私はシラけてしまう。

 菅政権が財務省に羽交い締めされた政権であるのは、いまやだれでも知っている。参院選での消費税引き上げ発言しかり、国家戦略室の格下げしかりである。

 それが代表選になったら、手のひらを返すように財務省を悪者にして財務省と戦うと言い出した。では、消費税引き上げはもうあきらめたのか、といえば、そうでもない。参院選で負けてしまったから、消費税はひとまず封印しているにすぎない。

 放漫財政は財務省のせいにしておきながら、消費税引き上げは財務省路線に乗っかって進めるつもりなのだ。

 ようするに、その場限りのご都合主義がぷんぷん臭っている。

 財務省の味方をするつもりは毛頭ないが、ここまで都合良く扱われると、さすがの財務省もあきれているだろう。いや、実際にそういう兆しもある。

 拙著『官邸敗北』でもエピソードを交えて描いたが、財務省エリートたちは実は、菅直人という政治家を内心、まったく評価していない。

景気が悪いのに雇用が増えるはずがない!

 もう一つ、菅のお気に入りに「1に雇用、2に雇用、3に雇用」というフレーズがある。最初にこの発言を聞いたとき、私は「政治家特有のリップサービスだろう」と思った。雇用増加は経済成長の結果であって、雇用増加を出発点にする経済政策はないからだ。

 雇用を増やすには、なにより経済を活性化させなければならない。景気が悪いのに、雇用が増えるはずもない。そんなことは、だれでも知っている。

 だから雇用拡大を目指すなら、まず経済を元気にさせる。そのために民間部門=企業・産業を元気にさせる政策を打ち出す。普通の国では、それが経済政策の役割である。

 ところが、菅はどうやら本気で「雇用が広がれば、所得が増え、消費を刺激し、経済が活性化する」と思い込んでいるらしい。立候補に際して発表した政策ペーパーにそう書いてある。「第一の柱が雇用を起点とした国づくり」と強調しているのである。

 会見でも「雇用を拡大し、そこから経済を立て直していく」と繰り返した。

 経済が活性化して雇用が増えるのではなく「雇用が増えて経済が活性化する」と信じているようなのだ。雇用拡大と経済活性化の因果関係を完全に逆立ちして理解しているのである。

 こういう発想で政策を考えると「雇用を守るためなら、なんでもあり」になる。あっという間に「税金投入で雇用を守る」政策に陥るだろう。雇用確保を大義名分にして、ゾンビ企業救済も政策金融の拡大ももちろんOKである。行き着く先は「社会主義」だ。

 政策的には「大きな政府」であり、人気取りの手法として官僚たたきのポーズをとっているが、いったん権力を握れば官僚丸抱えもいとわない。そこは実績が示している。

 どうやら、このあたりが菅の真骨頂であるようだ。今回の代表戦で菅という政治家の地金が露わになってきたとすれば、意義深い。

 さて、次に小沢である。

 小沢の政策ペーパーをみると、歯切れのいい言葉が並んでいる。

「国家予算207兆円の全面組み替えを断行する」「予備費(国庫債務負担行為を含む)の2兆円を直ちに全額執行し、景気対策を実行する」「国のひも付き補助金を地方への一括交付金に改める」「子ども手当は現行の16000円から2011年度に20000円、12年度に満額の26000円に引き上げる」などだ。

 公務員制度改革についても、国家公務員の天下り全面禁止に加えて、公務員に労働基本権を認め、国の地方支分部局は廃止、独立行政法人や特殊法人、特別会計は関係団体を含めて、必要不可欠なものを除いて廃止あるいは民営化すると明言した。

 これらは09年マニフェスト(政権公約)以来の民主党の基本路線である。

 そこから一歩進めた部分もある。たとえば、農業の戸別所得補償を拡充し「漁業についても11年度から段階的に所得補償を導入する」とうたっている。そうなれば、ますます財源が必要になるのは言うまでもない。

 これらの政策を実現しようとすれば、小沢は11年度予算編成で国債発行額の上限を44兆円、一般会計歳出の上限を71兆円とした菅内閣の閣議決定を見直すだろう。8月31日に締め切られた概算要求基準も、小沢は各省1割削減の方針を官僚主導と批判しているのだから、見直しは必至である。

 そうなると小沢が勝利した場合、11年度予算編成は昨年同様、秋に入って再びゼロからやり直しという事態になる。時間が足りなくなるが、さて、どこまでできるか。

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