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地デジのデタラメ 第1回
テレビを買い換えても映らない! 続々と生まれる
「難視聴」──あなたの家は大丈夫か
砂嵐の上の脅迫めいた文言(上)。これはNHKと民放が7月4日に放送した「全国一斉地デジ化テスト」の画面の一部だ。地デジ移行まで1年を切ったが、難視聴など問題は山積。このままでは、この画面が現実になる人が続出する。

[取材・文:亀井洋志(ジャーナリスト)] 

 東京・荒川区の市民グループが運営する生活相談窓口を訪ねた。酷暑のさなか、高齢者や生活に困窮する人々が途切れることなく出入りする。話題は暮らしや健康問題などが中心だが、最近では地デジに関する相談も増えてきているという。

 この日、相談に来ていた75歳の老婦人は、小さなアパートに独り暮らし。今年の春、家主が地デジ対応のアンテナを立ててくれたが、室内工事にかかる負担に躊躇している。

「電気屋さんに聞いたら、6000円ぐらいかかるという。私の年収は年金などで80万円足らずです。月々3万2000円の家賃を払っており、やはり出費は痛い。都営住宅に当たれば工事費は節約できるけど、もう5年待ちの状態です」

 それでもアンテナを立ててくれればいいほうで、賃貸住宅では家主が出費を嫌ってアンテナを設置してくれず、個別に対応しようとしても許可してくれないこともある。こうした住民の声に接している「荒川生活と健康を守る会」の角光男会長が語る。

「一日じゅうテレビをつけていることで、孤独感を紛らわせている独居老人は少なくありません。生活保護受給者でも食費を切り詰めて薄型テレビを買った人もいる。テレビは高齢者や貧困層にこそ、必要なものなのです」

 地上デジタル放送の完全移行まで、残り1年を切った。同時に、アナログ放送が全面的に終了する。現在、テレビ画面の上下に黒い帯(レターボックス)ができて「アナログ」という文字が表示されたまま視聴している人は、来年7月24日以降、テレビが見られなくなる。現時点で約1100万世帯が未対応で、結果、「数百万世帯が地デジ化に間に合わない」との予測さえある。

 テレビは国民的娯楽としてすっかり定着し、今やテレビを視聴することは、国民生活における最低限の文化水準と言える。娯楽ばかりでなく、地震や台風などの災害情報を伝えるライフラインとしての役割も担っている。"地デジ問題"は、貧困問題と不可分であり、このままでは経済弱者をさらに切り捨てることになる。

(社)デジタル放送推進協会は、NHKと在京キー局女子アナの推進大使を起用したCMで地デジをアピール

  総務省は、低所得者層に地デジ放送を受信する簡易チューナーを無償配布している。だが、対象は生活保護受給者や障害者のいる世帯などに限られ、NHK受信料が全額免除されていることが条件だ。

 最大270万世帯と見積もられているが、申し込み件数は昨年度63万件に止まり、今年度も120万件を見込んでいるが6月末時点でわずか22万件と伸びない。

 総務省はこの支援事業に総額600億円の予算を投じながら、周知の遅れが目立つのだ。しかも、年金収入だけで生活している人や生活保護水準に満たないワーキングプアは支援の対象外とされている。

 バラまき行政を実施したところで、なお地デジ化から取り残される"地デジ難民"が大量発生するのは必至の状況だ。

普及率83.8%のウソ

 そもそも、一方的にアナログ放送を強制的に終了してまだ使えるテレビを見られなくし、国民に負担を強いることが、本当に国民のコンセンサスを得られているのだろうか。「財産権の侵害」との声すらある。テレビの買い換えだけでは地デジは視聴できないから、アンテナの交換、あるいはチューナーを取り付けなければならない。全世帯が足並み揃えて、早々と準備できる話ではないのだ。

 それでも総務省は、地デジの普及率が8割に達し、目標値を超えて、国民の地デジ準備が着々と進んでいるとするが、この数字にはカラクリがある。地デジ普及率83.8%という数字は、総務省が今年3月、「地上デジタルテレビ放送に関する浸透度調査」で発表したものだ。

 アンケートの郵送による調査で、全国の15歳以上80歳未満の男女が対象。有効回答数は、1万2875件だった。

 地デジ対応受信機の普及率が、前回調査('09年9月)から14.3ポイント上昇したと自画自賛するが、主婦連合会の事務局次長で、総務省の「地上デジタル放送推進に関する検討委員会」委員の河村真紀子氏はこう指摘する。

「そもそも調査方法に欠陥があります。ランダムに電話をかけて、協力してくれる人だけにアンケートを送付しています。しかも、80歳以上は対象外です。表面的な数字だけは伸びているけれども、『受信機の普及率』だけでは実態を把握できません。

 薄型テレビは買っても、対応アンテナを立てていないなど『受信環境』が整っていないため、アナログ放送を見ている人もいる。実際にデジタル放送を視聴できているのは60%程度です」

地デジでは5チャンネルに変わるテレビ朝日は、下平さやかアナらを起用したピーアールCMを放送中だ

 薄型テレビは買ったが、見ているのがアナログ放送だと気づかない人、気づいてはいるがまだ対処していない人が相当数いるのだ。

 さらに、この1~2年のうちに課題はより鮮明になった。山間部及び都市部に点在する夥しい数の難視聴問題である。

 そこに住む人が「難視聴」と認識していないケースも多く、地デジ移行にあたって"続々と生まれる難問"とも言える。

 まず山間部などの僻地から見ていくが、難視聴地域に建てられていたアンテナなど共同受信施設のデジタル化は、いまだ約53%に止まっている。

 福島県川内(かわうち)村は、阿武隈山系に囲まれた盆地である。『テレビが言えない地デジの正体』の著者で、作家・たくきよしみつ氏が在住している。

7月24日、地デジ移行まで1年となり、草彅剛や地デジ推進大使の女子アナが広報イベントに登場した

「この村にはアナログ波も充分には届かない場所が多く、電力会社が原子力発電所の高圧送電線を建設する見返りとして、簡易なケーブルテレビを敷設しました。

 村の一部の地域では地デジも見られるようになりましたが、山間部に入っていくと地上波も届かなければ、ケーブルテレビも引かれていない地区があり、衛星放送を受信するしかありません。

 地デジ難視聴地域のために、今年からBSデジタルで首都圏の放送(NHKと民放5局)が再送出されています。ところが、総務省が決めたホワイトリスト(地デジ波が届かない衛星放送対象地区)と認定されなければ受信できないように、スクランブル(視聴制限)がかけられていて見られません。

 『ウチは電波が入りません』と訴えても、『ホワイトリストに入ってないのでダメです』と言われてしまうのです。BS・CSで難視聴対策の放送を見れるのに、何のために情報格差を押しつけてくるのか、理解できません」

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