牧野洋の「ジャーナリズムは死んだか」
2010年09月02日(木) 牧野 洋

なぜ買収ファンドが調査報道NPOを資金支援するのか

経営難の地方紙を手に入れた「ハゲタカ」は…

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 日本では「ハゲタカ」と見なされることも多い買収ファンド。利益ではなく公益を目標に掲げる民間非営利団体(NPO)の設立を支援することがあるだろうか。

 そんな事例がアメリカのメディア業界にはある。

 2009年春、人口136万人の南カリフォルニア・サンディエゴ。ここで発行される唯一の地元紙サンディエゴ・ユニオン・トリビューン(SDUT)は大リストラの真っただ中に置かれ、社員のだれもが不安におののいていた。

 経営難からSDUTは身売りを強いられ、400人に上った編集局の陣容は半減しそうだった。将来を不安に思い、割増退職金を受け取って早期退職する記者が続出。会社にしがみついても、強制解雇されるかもしれなかった。

 編集局内最大の取材部隊「メトロデスク」を率いていたロリー・ハーンも、SDUTにとどまる理由を見いだせなかった。仮に解雇を免れても、やりたくない仕事をやらされるだろう――こう思った。

 それには訳がある。ハーンはSDUTでは調査報道の責任者でもあり、「調査報道こそジャーナリズムの真骨頂」と考えていた。ところが、調査報道は金食い虫の筆頭であり、真っ先にリストラ対象になる分野でもあった。

「このまま会社にとどまれば、調査報道班は解散させられるのは必死。ならば先手を打って飛び出そう」

 彼女は一か八かの行動に出た。自ら作ったリストラ案を手に、新オーナーと直談判したのだ。新オーナーは、南カリフォルニア・ビバリーヒルズに本拠を置く有力買収ファンド、プラチナム・エクイティだ。

 すでに、プラチナムからSDUTに再建請負人が送り込まれていた。最高リストラ責任者(CRO)の肩書を持つポール・ブリッドウェルだ。経営不振企業を立て直すプロであるものの、ジャーナリズムの経験は皆無だ。

 彼のオフィスを訪ねたハーンは切り出した。

「調査報道なくしてジャーナリズムとは言えません。SDUTが調査報道から撤退したら、読者の信頼を失いかねません」

「調査報道が重要だということは分かるけれども、あまりにコストがかかる。今は非常事態だから、悠長な事は言っていられない」

「名案があります。工夫すれば、コスト削減を実現しながら、調査報道の灯をともし続けることも可能です」

 35年の新聞記者経験を持つベテランであるハーンが提案したのは、調査報道班のスピンオフ(分離・独立)だった。具体的には、(1)ハーンは調査報道班を引き連れてSDUTを飛び出し、NPO「ウォッチドッグ・インスティテュート(WI)」を創設する(2)プラチナムはWIの創設資金を拠出する(3)SDUTはWIから調査報道記事の供給を受ける――といった内容だ。

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