企業・経営 政治政策
孫正義「税金ゼロでできる『光の道』」構想の真贋を問う
とても国策などにはできない「綱渡り経営」が露呈

 これは債務超過に陥りかねないという証左だ。ベンチャー企業ならいざ知らず、国策として推す戦略と言えない――。

 2015年をめどにすべての世帯でブロードバンドサービスを利用する社会を築く「光の道」構想――。孫正義ソフトバンク社長は、それを「税金投入ゼロでできる」と、これまで提唱してきた。

 原口一博総務大臣の「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」のメンバーである筆者は、タスクフォースでその提案を検討できる日を楽しみにしてきた。そんな薔薇色の戦略があるのであれば、国民や消費者のために採用しない手はないからだ。

 ところが、孫社長の「光の道の実現に向けて」という意見書には、「綱渡り」あるいは、「アクロバット」としか呼べない乱暴な戦略しか記載されていなかった。

 創業期のベンチャー企業ならチャレンジングなビジネスモデルを採用し、もしそれが失敗をしても、迷惑を蒙る関係者はそれほど多くないだろう。

 しかし、「光の道」構想は国家戦略だ。危うい計画に、日本を束ねるアクセス回線網を委ねることは、経済だけでなく、安全保障の面から看過できない。

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 本題に入る前に、まずお断りしておくべきことがある。

 それは、「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」の「過去の競争政策のレビュー部会」と「電気通信市場の環境変化への対応検討部会」の2部会が合同で開催した8月23日の事業者ヒアリングのことだ。

 ここでは、3時間を費やして主要な電気通信事業者6社と「光の道」構想に関する意見交換を行った。筆者は各方面から、その内容や浮かび上がった方向性について情報開示と解説を求められている。

 しかし、これはご容赦願いたい。というのは、この日は、アクセス網を保有するNTTやケーブルテレビ各社の企業秘密に属する経営情報の議論が予想されたため、「非公表」を前提に質疑したからだ。

 情報の開示に関連して言うと、ソフトバンクは外部に対し、「当社は全部開示した」といい、「NTTも開示するべきだ」と主張している。しかし、これはひどい屁理屈だ。

 ソフトバンクが開示したのは、自社の機密情報などではなく、NTTの内情に関する推察に過ぎないからだ。それを以て、NTTに機密情報の開示を迫るのは筋違いだろう。 

 もちろんアクセス網のあり方を検討するために、NTTに最大限の情報開示を要請することは必要である。しかし、あたかもNTTが何かズルイことをやっているとの印象を与えるような要求をすることはいかがなものか。

 議論に対するこういう姿勢が、NTTを始めとした関係者の感情をいたずらに害していることを、孫社長は反省するべきだ。よくご注意いただきたい。

 本題に入ろう。実は、ソフトバンクは良いこともやっている。それは、タスクフォースのヒアリングを終えた8月23日夜、孫社長が自らU-STREAMを使ったインターネット放送で2時間以上にわたって意見陳述の内容を説明したことだ。

 もちろん、内容はかなり主観的で、ヒアリングで受けたと孫社長が説明した質問と、実際にヒアリングで出た質問は必ずしも一致しない。我田引水の印象を与える部分もある。

 が、とにかく、孫社長は一般向けに自らの主張を公開した。この放送で使用した資料(なぜ表紙の日付が「8月16日」なのかは不明)も、同社のホームページに掲載した。興味のある方は、下記のアドレスをご覧いただきたい。

 http://www.softbank.co.jp/hikarijp/

 ここに掲載された資料は、クローズドのヒアリングの内容を伺い知るヒントになる。

 筆者がこれまで、本コラム(4月27日付の「ソフトバンク孫社長が仕掛ける『NTTの構造分離』への疑問」や、5月25日付の「孫正義社長『税金ゼロで光の道が整備できる』はムリがある」)で指摘してきた問題点・疑問点に対する、孫ソフトバンクとしての回答ということになる。

 本稿は、この資料に関して、筆者なりの解釈・解説を加えることによって、孫「光の道」構想の実現性を検証してみたい。

36億円の債務超過に陥るアクセス会社

 あらましから説明すると、毎秒100メガビットの超高速光ファイバー網を主体とする「光の道」構想を、「税金ゼロ」で整備する方策として、孫ソフトバンクが提案しているのは、現在、NTTの東西地域会社が保有しているアクセス網(事業者・家庭から末端の電話局までの通信網)を同グループから分離して別会社にすることから始まる。

 そして、このアクセス回線会社は、合理的に考えて、保有する従来型のメタル(銅線)の通信網をすべて5年以内に撤去し、光ファイバー網に置き換えるべきだというのが、孫社長が与える経営指南なのだ。

 メタルは光ファイバーに比べて維持費が割高なうえ、この二つの二重投資は無駄だというのが、その根拠という。さらに、新たな投資に「約2兆5000億円の資金が必要だ」が、「民間調達が可能」と断定している。

 ところが、孫社長が主張するほど、アクセス回線網の企業化は容易な話とは思えない。
むしろ、ホームページに掲載された資料「光の道の実現に向けて」を検証すると、重大なリスクが浮き彫りになってくる。

 このうち最大のものは、「債務超過」への転落リスクである。

 問題の資料をみると、74ページ(下図をご参照ください)の「(新旧会社の)バランスシート」において、NTTグループから切り離すアクセス回線会社の純資産額を1兆7465億円と仮定しているが、その一方で同151ページ(次頁の図をご参照ください)の「アクセス回線会社:当期利益」で、メタル回線を光ファイバー回線に5年以内に張り替えるために、初年度に1兆7501億円の特別損失処理をする必要があると述べているからだ。

 2つの数字の差額はマイナス36億円だが、これこそ、アクセス回線会社が36億円の債務超過に陥るという意味に他ならない。

 ちなみに、この特別損失は、現時点で税法上の価値が残っており、立派に稼いでいるメタルの回線網をいきなり繰り上げ一括償却することに伴う特別損失の1兆5997億円と、銅線網の撤去費の引当金2888億円を含んでいるという。

 だが、後述する債務超過が招く数々の経営危機のリスクとあわせて、株主(この場合はNTT持ち株会社の株主)がこうした繰り上げ償却を容認するとは考えにくい。

 ちなみに、ソフトバンクが用いた純資産額は2008年度末のもの。特別損失の計上を計画している初年度(2011年度)とは3年の開きがあるし、本当に、ソフトバンクの試算のように特損処理を初年度一括で計上する必要があるかどうかを判断するための年次ごとの張り替えの手順なども見えていない。

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