名古屋場所からようやく通常開催
[大相撲]年寄株売買の在り方など課題を積み残し

千秋楽にもかかわらず空席が目立っていた大相撲技量審査場所=両国国技館で5月22日

 八百長騒動で揺れ続けた大相撲は、半年ぶりに名古屋場所(10日初日、愛知県体育館)から通常開催に戻り、NHKの生中継も従来通り再開する。2月の八百長メール発覚の直撃を受け、3月の春場所(大阪)は中止、5月の夏場所(東京・両国国技館)は無料公開の技量審査場所としてしのいできた。全国の相撲ファンも胸をなでおろしていることだろう。

 だが、日本相撲協会の組織改革は「年寄名跡」をめぐる泥仕合が本格化しそうな気配で、公益財団法人の認可という、協会の目指すゴールにはまだ高いハードルも残されている。

 ここ数年、大相撲は厳しい逆風にさらされてきた。時津風部屋の新弟子死亡事件、横綱・朝青龍の相次ぐ「品格」をめぐるトラブル、外国人力士を中心にした薬物汚染。さらに土俵周りの「維持員席」が暴力団関係者に流出していた問題と、大関・琴光喜の解雇に発展した野球賭博事件---。これに八百長相撲の発覚が最大級の不祥事としてとどめを刺した。

 企業など普通の組織ならとっくに解体・消滅していて不思議のないほどトラブルが続いた。この間、協会トップの理事長は北の湖(元横綱・北の湖)、武蔵川(同・三重ノ海)がそれぞれ任期途中で退任。1年前の名古屋場所は外部理事の元東京高検検事長、村山弘義氏が理事長代行として場所を取り仕切る異例の場所だった。

 昨年8月に就任した放駒理事長(元大関・魁傑)は就任早々、協会の抜本的な改革に取り組まざるを得なかった。

 当面する問題は暴力団など反社会組織との断絶だったが、協会の組織改革など中長期的な課題にも取り組む必要があった。こちらの方が相撲界にとっては影響の大きい大問題でもあった。

 武蔵川理事長時代に設置された外部識者による第三者機関「ガバナンス(組織の統治)の整備に関する独立委員会」(座長・奥島孝康元早大総長)は昨年8月、暴力団排除対策と維持員席の制度改革について協会に答申し、「当面の問題」にけりをつけると、約半年間をかけて協会の組織改革について検討を重ねてきた。その上で今年2月、最終答申を放駒理事長に提出した。

 最終答申の中で、協会の理事に力士出身者以外の外部から増員することや、部屋の師匠の協会理事兼任を禁止するなど、従来の角界の「常識」では考えられない制度の導入をいくつも盛り込んだ。とりわけ注目されたのが「年寄名跡」(年寄株)の問題だった。

 力士が現役引退後、協会に残るためには年寄株が必要になる。年寄株を取得すれば、部屋持ちの師匠であろうが部屋付きの親方であろうが、65歳の定年まで協会の一員として報酬が支給され、身分が保障される。

 名横綱に許される「一代年寄」を除く年寄株は105と数が限られている。師匠から弟子などへ継承されてきた年寄株だが、水面下では数千万円から億単位の高額な金銭でやり取りされてきた歴史がある。親方株の譲渡をめぐり脱税事件で摘発されるなど、不明朗な金銭授受が相撲界の不正の温床と指摘する声もあった。

 最終答申は年寄株について「その財産価値はきわめて高い」と認定したうえで、現状の不明朗な継承について弊害を指摘した。まず引退後、協会運営に携わる資質があっても経済的理由で協会を去らなければならない者が現れる。また、年寄株取得のため多額な借金をしたり、後援者に過度に依存する状況を作ると指摘。そのうえで答申は、譲渡のプロセスの明確化を求め、「金銭の授受は認められない」と断じた。

 独立委員会が最終答申を提出したのは2月17日。八百長メールが発覚した直後で、協会幹部や親方たちにとっては八百長関与者がどこまで広がるか、戦々恐々としている時期だった。親方たちには生活がかかった年寄株問題だが、当時は「それどころではない」と、表面上は親方たちから反発の声は上がらなかった。だが、八百長事件の処分者が発表され、騒動が収束に向かうにつれて、協会関係者からじわじわと反発する動きが出てきた。

 放駒理事長が名古屋場所の通常開催を発表した6月2日、親方たちの間から堰を切ったように執行部批判の声が相次いだ。

文科省に改革「工程表」示す

 放駒理事長はその前日、監督官庁の文部科学省に名古屋場所の開催について伺いを立てる際、公益法人格取得に向けた協会組織改革の「工程表」を提出。その中で、年寄株については独立委員会の最終答申に沿って「売買禁止」の方向で検討を進めることが盛り込まれていたためだ。

 協会の工程表は、注意深く読むと、なかなか意味深長だ。年寄株の「売買禁止」を全面的に受け入れたものではない。むしろ、売買を禁止することの問題点の指摘とも受け取れる。

 まず、個人間の金銭授受をやめる場合の方策として(1)協会が有償で買い取る(2)年寄の退職時に協会に返上させ、退職金を割り増す---という二つの方策を示した。その上で、協会が財政負担に耐えられるか、個人の財産権を侵害し法的に問題になる可能性があるかを検討課題に挙げ、今年10月までに協会としての方針を決めるとしている。

 協会の有償買い取りや、退職金の上積みは、協会が考えた方策ではない。独立委員会が救済策として検討したことの受け売りに過ぎない。「財産権の侵害」に当たるとなれば、協会として年寄株の譲渡に口を出せないことになる。

 協会は13年11月に期限が迫る公益財団法人への移行認定を目指している。文科省は独立委員会の最終答申を着実に実行するよう協会を指導している。工程表もそれに従い、項目ごとに実施期限を設定し、協会の組織改革を進めるとしているが、こと年寄株を巡っては親方たちの〝反撃〟も今後強まることが予想される。

 半年ぶりに通常開催される名古屋場所は、大関・魁皇が元横綱・千代の富士の持つ通算最多勝1045勝に「あと1勝」と迫っており、横綱・白鵬は前人未到の8連覇に挑む。記録への興味が集まる場所だが、土俵外では「相撲どころではない」親方たちの生活をかけた必死の攻防も白熱しそうな気配だ。

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