「災後」の混迷
地に堕ちる〝居座り〟菅首相の求心力
「復興提言」の実現も不透明

がれきの中で遊ぶ被災地の子どもたち=宮城県南三陸町で6月10日

 政治が混迷している。東日本大震災の発生から3カ月以上たって復興基本法がようやく成立したものの被災地そっちのけの〝政治空白〟が続いている。「東日本大震災復興構想会議」(議長・五百旗頭真防衛大学校長)は6月25日、「復興への提言」を菅直人首相に手渡したが、現政権はすでに本格的な復興への推進力を喪失。再生エネルギー法案へのこだわりも政権延命の思惑が見え隠れし、「税と社会保障の一体改革」の先行きにも暗雲が立ち込める。「戦後」に次ぐ「災後」の国難の真っただ中で、政治が機能停止状態に陥っている。

「防災から減災へ」提言

 復興構想会議は首相の私的諮問機関として震災発生から1カ月以上たった4月14日に発足した。6月20日成立の復興基本法で法定化され、提言の重みが増した。

 集中的な議論をとりまとめた「復興への提言」は25日の会議で、五百旗頭議長は菅首相に手渡し「我々なりに未来に向けた青写真となるべき提案を盛り込んだつもりだ。政府がこの提言を真摯に受け止め、誠実に速やかに実行することを強く求める」と注文した。

 この時期の提言は当初は「第1次」と位置づけられ、年末に最終的な提言を出す予定だった。しかし被災地の深刻な状況に配慮し「現時点で出しうるすべて」(五百旗頭氏)をまとめ、政府に対して早急な制度設計と事業着手を促した。背景には任命権者の菅首相の退陣時期が取りざたされるような政治状況への不信と不満があるとみられる。

 提言は4章立ての本文34ページに19の図表を付け、資料編も添えた。「悲惨のなかの希望」とのサブタイトルは五百旗頭議長の強い思いが込められているという。今回の大震災を地震と津波、原発事故、その後の風評被害も含めた「複合災害」と位置づけ、算定が難しい原発災害を除いても直接被害総額は約16兆9000億円(内閣府)に上るとした。

第1章「新しい地域のかたち」では、「物理的に防御できない津波が存在する」ことを教えられたとし「大自然災害を完全に封ずることができる思想」を捨て「災害時の被害を最小化する減災の考え方が重要」と防災思想からの転換を示した。

 被災地を具体的に

(1)平地に都市機能が存在しほとんどが被災した
(2)平地の市街地が被災し高台の市街地が被災を免れた
(3)斜面が海岸に迫り平地の少ない市街地および集落
(4)海岸平野部
(5)内陸部や液状化による被害が生じた――と地域を類型化して復興施策を例示した。

 そのうえで、防波堤や防潮堤など「線」による防御思想から、河川、道路、まちづくりも含めた「面」による多重防御へ転換し、道路や鉄道など公共施設の盛り土も防災施設に位置付ける。防災集団移転促進事業や土地利用規制など既存手法の検討と必要な改良をする、としている。特に土地利用については、都市計画法、農業振興地域整備法、森林法などに分かれている煩雑な手続きの一元化を求めている。

 地域の復興の担い手と合意形成の主体は、あくまでも市町村とし、地域の住民、NPO、企業などと連携し自主的で総合的な施策を作る。国はビジョンと理念、支援メニューなど復興の全体方針を示し、都道府県は市町村を包括する広域行政課題に対応する役割を担うようにする。

 さらに、将来起こり得る災害からの復興に備え、制度や事業は全国で活用可能な恒久措置化を求めている。1959年の伊勢湾台風を契機に災害対策基本法、95年の阪神大震災により被災市街地復興特別措置法などが作られた例を挙げ、今回の震災の特徴である津波による壊滅的な被害に対応する一般的な制度の創設が必要だとしている。

第2章「くらしとしごとの再生」では、くらしの復興には「地域包括ケア」と「学校の機能拡大」を挙げた。地域包括ケアはすでに厚生労働省が推進している政策の拡充を目指す。保健・医療、介護・福祉サービスを一体化し被災した人々を「つなぐ」とともに、雇用の創出を図る。「緊急雇用から雇用復興へ」、さらに「産業振興による本格的雇用の創出」につなげることの重要性を強調している。製造業や農林水産業など地域産業の復興のために、「特区」手法の活用を薦めている。

 復興構想会議の委員でもある村井嘉浩宮城県知事が提案し、地元漁協が反発して話題を呼んだ沿岸漁業に民間会社を参入しやすくする特区構想については、「漁業者が主体的となった法人が漁協に劣後しないで漁業権を取得できる仕組み」と、地元漁業者に配慮しつつ導入を明記した。しかし、経営力や資本力に乏しい地元漁業者が中心の企業形態が成り立たつかについて懐疑的な専門家もおり、制度の実効性に問題が残る。

 被災地のインフラ再構築にあたり、地域に見合った先端的な自立・分散型エネルギーシステムの導入を目指す。東北を再生可能エネルギーの利用促進の先進地域と位置づけ、日本のエネルギー政策の転換を先取りする意気込みだ。

 これらの復興事業を推進していくための十数兆円ともいわれる必要財源について、提言は「国・地方の復興需要が高まる間の臨時増税措置として、基幹税を中心に多角的な検討を速やかに行い、具体的な措置を講ずるべきだ」と増税を明記した。

 添付資料で、国と地方の長期債務残高が、阪神大震災当時の94年度末368兆円に対し、10年度は869兆円で国内総生産比では75%から181%に跳ね上がっている財政事情を説明。「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担を分かち合う」と、復興構想7原則に沿った考えを示した。増税に対しては政府・与党内にも異論があり、国民の負担増では「税と社会保障の一体改革」にも連動し、今後議論が紛糾しそうだ。

第3章「原子力災害からの復興に向けて」で、「国の態勢の一元化と必要な法整備を含めて、長期的な視点から国が責任をもって再生・復興に取り組むべき」とした。「福島の大地がよみがえるときまで、大震災からの復興は終わらない」との認識の共有も求めている。

第4章「開かれた復興」では、「成熟した先進国家の災害からの復興過程」を世界に示し、これを契機に世界共通課題である環境問題をけん引する国家を目指すべきだと記した。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら