1ドル83円台突入、日経平均9000円割れ!それでも菅首相・白川日銀総裁は「15分電話会談」の異常事態
なせ経済政策にやる気がないのか

 「気のない」とか「心がこもらない」というのは、こういう行動を指すのだろうと思わせた、菅首相と白川日銀総裁の電話協議が、8月23日の朝に行われた。

 両者の会談で、さて何が出るか、と市場関係者は注目していた。

 ここでいう市場関係者には、為替市場の関係者の他に、株式市場の関係者も含まれる。日米の株価の推移と為替レートの動きを一緒に眺めると、為替レートが円高になるのとシンクロして、日本の株価が割り負けしている。今さら言うまでもないが、日本企業の収益は外需と為替レートの影響を大きく受けている。それは、日本の景気にもいえることだ。

 さて、注目の菅・白川協議だったが、筆者は、その内容を8月23日のお昼のNHKニュースで知って唖然とした。

 正午のニュースのトップは、菅首相が民主党の一年生議員約20人を集めて、自らの続投支持を訴えたというニュースだった。

 もともとテレビや新聞は政局のニュースを過剰に重視して報じる傾向があるので、割引が必要かも知れないが、菅首相は、向こう3年間掛けて政策を実行して「衆参同日選挙で国民の信を問おう」と力を込めた。一年生議員を相手に「直接会って」だ。

 菅首相と白川日銀総裁が電話で会談したというニュースは、お昼のニュースとしては三番目のニュースだった。協議は、菅首相から白川総裁に電話を掛けて行われ、仙谷官房長官と3人で、時間にして約15分間行われたのだという。

「会議は米国、欧州の金融経済動向の認識から始まった」(『日本経済新聞』8月23日夕刊)と報じられているが、そこから始めて、15分で内容のある議論が出来るはずもない。

 菅直人氏個人にとっては、円高よりも代表選の方が大事なのかも知れない。しかし、経済の重要問題に対するこの粗略な対応には、呆れる以外に反応のしようがない。

 会議の結論は「政府、日銀の間で緊密なコミュニケーションをとっていくことが極めて重要」とのことだが、この気のない電話協議自体が、結論を事実によって否定している。

 菅・白川協議で「おやっ」と思わせる点を一つ挙げると、協議に参加していたもう一人が、野田財務大臣ではなく、仙谷官房長官だったことだ。為替の介入が財務大臣の権限であることからも分かるし、円高は外為特会の損を意味するのだから、この問題の当事者である閣僚は野田財務大臣だ。

 彼を外して協議している段階で、既に、この協議は形だけ行われるもので、中身のないものだと思わざるを得ない。推察するに、挨拶を除くと、白川総裁が菅首相に簡単な状況説明のご進講をした程度の内容なのだろう。

 世間では、仙谷氏が菅内閣の実権を握っているとの噂を聞くが、さもありなんと思わせる。その仙谷氏が、電話協議の内容について記者会見で発表したが、これが、細部に至るまで、徹底的になっていなかった。

 この協議に当たって、政府側(菅首相、実質的には仙谷官房長官側か)で認識しておくべき前提条件は以下の通りだった。

(1) ここのところ進行した円高は日本の景気と企業業績にマイナスの影響を与えており、雇用への影響も懸念される。政府は円高問題に対して、最大限真剣に取り組んでいるという姿勢を国民に示す必要がある。

(2) 日本が為替市場に介入すると米・欧が批判する可能性が大きく、現時点で介入は行えないが、介入を行うかも知れないという可能性は、為替市場の参加者にアピールする必要がある。

(注;実質実効レートの状況からみて、現状は極端な円高だと言えるレベルではない。また、米・欧も景気と雇用の状況が悪く自国通貨安を容認しており、日本が円安誘導することは非難の対象になる公算が大きい。

 先進国が、中国元の管理相場を非難していることとの整合性の点でも、相場急変のスムージング以外の相場誘導的な介入は許容されないと考えるべきだろう。単独介入して国際的に非難された場合、二の矢が出せなくなることで、かえって徹底的に円買いされる可能性もある。

 しかし、介入の「可能性」があることは、投機筋に対する抑止にはなる。

 従って、実際に介入はしないが、可能性は留保して、それで円高が止まれば儲けもの、というのが、日本政府の置かれた立場だ)

(3) 円高の進行の長期・短期両方の原因として日本のデフレがある。デフレ期待を反転させる追加的な金融緩和措置を実現することと、実現の期待を高めることの両方が重要だ。

(注;現状の15年ぶりの円高水準が、実質的にはそれほどの円高ではないのは、日本だけがデフレであったためだ。為替レートは、長期的には、物価水準を調整するように動く。また、短期的には実質金利が重要だが、米欧の金利低下(最近は長期金利が2%台に低下してきた)によって、日本の実質金利がデフレで相対的に高止まりしていることが目立っている。

 金融緩和の効果を上げて円高が反転することが、日本の経済にとって理想的だ)

 さて、上記の(1)(2)(3)に対して、仙谷官房長官はどう語ったか。

 先ず、欧米の金融経済情勢を語ったと言ったのだが、日本経済への影響を詳細に検討した、と真っ先に言うのでなければ、広報的には落第だ。不満を抱えた顧客(=国民)に対しては、先ず、「あなたの状況がいかに大変か、私は重大な関心を持っている」と伝えるのが、クレーム処理のイロハだ。

 市場が注目する「介入」については、協議したかどうかについて「まったく出ていない」(『日本経済新聞』23日夕刊)と語ったが、どうして「具体的にどうするとは申し上げられないが、当然話題になった」とでも言わないのか。

 介入の実施を直接示唆したり、為替相場のレベルに言及したりすると、国際的な非難を受けるかもしれないが、話題にすることまではOKの筈だ。せめて、「介入については、ノーコメントです」とでも答えるべきだった。

 驚く事に、追加金融緩和を協議したかどうかについて仙谷長官は「ノーコメントにさせてもらいたい」と答えた。デフレ脱却のための金融緩和について、外国に気を遣う必要はないし、協議すること自体は当たり前だ。

 また、これまでの経緯から菅首相が財務省に忠犬のごとく気を遣っていることは分かるが、日銀にこんなに下手に出る必要がどこにあるのかが不可解だ。

直接会談はいまからでも遅くない

 今からでも遅くはない。政府と日銀の緊密な連携を事実で示すためにも、経済問題に真剣に取り組んでいることを国民に示すためにも、白川総裁を官邸に呼んで、直接議論すればいい。

 事態の推移としては、少々奇妙だが、市場は多少の「サプライズ」、あるいは経済問題にかける菅首相の「熱意」を感じるかも知れない。数十銭程度の円安効果はあると思うが、どうだろうか。

 余談だが、それにしても、菅首相の経済問題に対する熱意の無さは些か異様だ。

 G8やG20のような国際会議で、英語も経済も分からなくて辛い思いをして、これが所謂トラウマになるとともに、財務省の官僚や日銀マンに対する精神的な依存が生まれたのだろうか。

 あるいは、ユーチューブでは再生回数が多い有名な動画になっているが、参議院本会議で自民党の林芳正議員に「乗数効果」について質問されてボロボロになった事件で経済が嫌いになったのだろうか。

 真相は推測するしかないが、一国の首相としては困ったものだ。

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