Vol.5企業と個人のコミュニケーションを繋ぐ新戦略"ゲーミフィケーション"は万能なのか?「メッシュ・カンファレンス2011 レポート」(2)
インターネットが普及し、ユーザー数も当初とは比較にならないくらい爆発的に増大した。
あらゆる場所と人々がつながったいま、インターネットを利用するということは、ただ検索や買い物、情報発信のためだけではなく、社会そのものを変える可能性にも満ちている。
実際に、新しい産業が生まれ、旧来の産業のなかには価値転換を迫られているものもある。あまりにも変化の速度が激しいため、我々自身がその状態に適合する術を知らない。

本連載ではインターネットを介在させることで、これまで見過ごされてきた価値や経験などのヘリテージ(財産)を、新しい未来へとどう接続し直していくのか、コミュニケーションやメディアの変遷を通じて探ってみたい。
例えば、それは筆者のフィールドであるメディア産業を軸に、金融、製造など、多岐にわたる分野で起きつつあることを取り上げながら、新しい環境に我々が適合するためのヒントを探っていきたい。

 前回に引き続き、5月にカナダのトロントで開催された「メッシュ・カンファレンス」のハイライトをお伝えする。今回は、ゲーミフィケーションについてだ。「メッシュ・カンファレンス」の最終日にあたる26日、二回目の基調講演を務めたゲーブ・ジカーマン(Gabe Zichermann)氏の講演は白眉だった。

 多くの日本人にとって、「ゲーミフィケーション」は耳慣れない言葉かもしれない。直訳すれば、「ゲーム化戦略」といったところだが、ウェブ・マーケティングにおける最新キーワードでもある。

 簡単に言えば、ゲームにおいて用いられるテクニックを、ゲーム以外の分野に応用しようという考え方だ。たとえば、ウェブに訪れる顧客とのコミュニケーションなどが対象となる。また、ウェブのみならず、イベント等も含めたさまざまな顧客接点でこの考え方を用いることができる。マーケティングの分野ではゲーミフィケーションを用いることで、企業はより顧客とのエンゲージメントを高めることが期待されている。非商業分野では、教育や社会貢献などでも応用可能だ。

 ゲーミフィケーションのわかりやすい事例として、もしくは古典的なものとしてよく挙げられるのは、航空会社が行うマイレージ・プログラムやスーパーマーケットのポイントカードなどがある。

 マイレージ・プログラムでは、その航空会社を利用すればするほど、顧客自身のアカウントにマイレージが溜まっていく。いずれはその報償としてチケットを入手、もしくは良い席へのアップグレード等ができるため、顧客のモチベーションも継続し、それにより適切なサービスを享受できればロイヤリティも増すだろう。

 ゲーミフィケーションでは、そこにソーシャルの要素が加わる。用いられる具体的なテクニックはいくつかある。たとえば、そのサービスにおける自分の行動と現在のステータス(レベル)が可視化されること(溜まったマイレージの確認等)、そして、報償(スコア)などを与えることでモチベーションを持続させること、さらにほかのユーザーと競わせることも重要だ。

 昨今では、ソーシャルメディア上で用いられることが多く、ファンウェアと呼ばれる非ゲーム系のアプリケーションなどでもこのアイデアが用いられる。たとえば、ユニクロの「UNIQLO LUCKY MACHINE」キャンペーンや日本コカ・コーラの「スゴイ自販機」 【註1】なども、ゲーミフィケーションを用いた顧客エンゲージメント施策のひとつと言えよう。

 また、GPS連動型ゲーム(通称"位置ゲー")として話題となった「フォースクエア」 【註2】もゲーミフィケーションの事例としてよく挙げられる。こちらは、任意の場所に「チェックイン」することで取得できるバッジ・アイコンを集めることがモチベーションとなり、他のユーザー同士と競い合う。

ゲーミフィケーション幻想への警鐘

 基調講演を行ったゲーブ・ジカーマン氏は、昨年に出版された「ゲーム型マーケティング(Game Based Marketing)」、そして今年7月に発売予定の「ゲーミフィケーション・バイ・デザイン」の著者だ(二冊とも日本未発売)。

 また、ゲーミフィケーション・サミットの委員を務め、「ザ・ゲーミフィケーション・ブログ(英語)」の編集者として活躍する、この分野のキーマンだ。そんな彼による講演はとても刺激的なものだった。たぶん、今後日本でもゲーミフィケーションの考え方が浸透するにつれ、彼のアイデアはその安易なアイデアの粗製に対する戒めにもなるだろう。

 ゲーブ氏は述べる。「ゲーミフィケーションとは、深く人々を繋ぐ戦略だ。ウェブにアクセスするユーザーの多くはゲームをプレイしたことがある。ゲーミフィケーションは、ゲームと共に育ったユーザーたちを再接続するものだ」

 そして、ゲーミフィケーションがブームになりつつある今、改めて「(ウェブ)業界がゲーム企業のように振る舞うことがゲーミフィケーションではない」と断り、「あなたのダメなサイトで、ダメなバッジ・アイコンを配布することじゃない」と手厳しく批判する。

 米では多くのサイトがフォースクエアに触発され、バッジ・アイコンを配布するサービスを導入したり、その手のサービス提供社が登場しているので、おそらくそれらに対する揶揄だろう。彼は、「ゲームから技術を学び、ユーザーの体験をもっと面白くすることだ」とゲーミフィケーションの本質を語る。

 また、ゲーブ氏は「ゲーミフィケーションは良い商品と調和したとき、効果が上がる」と指摘。「バッジを集めさせるのは、バッジフィケーションだ」と揶揄し、「何の目的もなく、ゲーミフィケーションを用いるべきではない」と付け加えた。

 【註1】 ユニクロの「UNIQLO LUCKY MACHINE」
2010年9月に行われたキャンペーン。フェイスブック・アプリとして高速な3次元画像で遊べるゲームをユーザーに提供。ボールを弾いて得点をもらうというもの。ソーシャルメディアを通じて友だちを招待すると、手持ちのボールが増える機能をもつ。
日本コカ・コーラ「スゴイ自販機」
2011年1月にスタートしたキャンペーン。自販機をモチーフにしたミクシー・アプリとフェイスブック・アプリで、好きな製品を選び、デジタルフィギュアを集めるというもの。コレクションは友だちに見せることができる。また、フィギュアを集めるためにはコインが必要となり、コカ・コーラ・パークというサイトで会員登録をすると、コインが手早く集められる。
【註2】 フォースクエア
スマートフォン用の専用アプリを使い、自分の位置をGPSで知らせ、いまいる場所に「チェックイン」すると、バッジのデザインが模されたアイコンをもらえるゲーム。一定の期間内に誰よりも多くチェックインすると、「メイヤー(市長)」の称号を与えられる。そのため、ユーザー同士で誰がその場所のメイヤーになるのか競い合える。ソーシャルメディアとの連携も強く、自分のチェックインした状況をツイッターやフェイスブックで自動的につぶやくことができるため、送客サービスとしても注目されている。

 これは、ゲーミフィケーション幻想に対する彼からの警鐘だ。ゲーミフィケーションは恒久的なエンゲージメントを約束する魔法の施策ではない。ユーザーを飽きさせないためには常に変化が必要だろう。

 ゲーブ氏は、「フォースクエア、ゴワラ(位置情報連動型ソーシャルアプリ)はゲームメカニズムを進化させることに失敗している」と告げる。バッジ集めは初期に有効だが、そのまま仕組みが変わらねば、ユーザーはやがて飽きてしまうということなのか。

「ゲーミフィケーションのコンセプトで用いる重要な概念は"フロー"。それは、ユーザーに時間と空間の感覚を失わせること。参加をできるかぎり延ばす」というゲーブ氏。たしかにゲームをプレイしたことのある人なら、この"フロー"について、何となく理解できるかもしれない。

「オンラインもオフラインもユーザーがその空間を支配していると感じさせることがエンゲージメントである」とゲーブ氏が語るように、ただ単にゲームアプリをつくってそれを配布することが本質ではなく、もっと、そのゲームの内容を掘り下げて考えるべきだろう。

 フェイスブック・アプリによる販促キャンペーンの成功に続けとばかりに、誰も彼もがルーレットゲームやデジタルグッズが当たるキャンペーンばかりやっていたら、やがてユーザーもそっぽを向くだろう。ゲーブ氏の示唆するところは大きいはず。

 また、ゲーブ氏はゲーミフィケーションの事例として、海外で日産リーフが行うユーザー囲い込み施策を挙げていた。それはエコドライブの記録がダッシュボード上で可視化され、それがフェイスブックのソーシャルグラフと連動するというものだ。友だちとエコドライブを競い合うというこの方法こそ、顧客エンゲージメントを高めるゲーミフィケーションだと彼は述べる。

 「多くの人は、ポイントシステムを商品引換えと考える。しかし、ゲーマーはそれを経験値と考える」とゲーブ氏は語る。加えて、「良いゲーミフィケーションは、ユーザーを次のレベルへと移行させる。システムの精通者に向上させるのだ」とも。そして、「ゲーミフィケーションとは、本質的に備わっている(ユーザーの)モチベーションを見つけ、非本質的な報酬を用意してあげること」だと括る。

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