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 読者諸兄は浜田宏一先生をご存じだろうか。あのハマコーとは別人だ。東大法学部在学中に司法試験に合格したのち、経済学部に入り直し、米国の名門エール大学で博士号取得。現在もエール大学経済学部で教鞭を執り続けている「伝説」の教授である。専門は国際金融で、米国から日本経済を見ているが、最近の状況は歯がゆいようだ。

 実は浜田先生の東大助教授時代の教え子の中に、白川方明(まさあき)日銀総裁がいる。その教え子に対して浜田先生は、今年7月に著した著書の中で公開書簡を認め、各界で話題になった。「いまの日銀は、金融システム安定化や信用秩序だけを心配して、本来のマクロ金融政策という『歌』を忘れたカナリヤ」と批判する内容だったからだ。

「経済学者としての責務」から、やむにやまれず筆を執った浜田先生の真摯な気持ちに対して、日銀のとった態度は大人げなかった。

 公開書簡入りの著書を献本された白川総裁は、「自分で買う」との私信をつけて送り返した。それだけではない。日銀は米国在住の浜田先生に日本での経済学会議への招待を打診してきたのだが、なんと「日本への旅費は自腹」という、学問の世界の常識からはほど遠い失礼なものだった。

 浜田先生によれば、白川氏は大変優秀な学生だったという。

 白川氏がシカゴ大学に留学した後に、シカゴ大学のハリー・ジョンソン教授が主張する貨幣的アプローチ(国際収支の不均衡は貨幣市場の不均衡によってもたらされ、調整は金融政策が有効とする説)を日本に持ち帰り、為替変動などの経済現象に対しては、日本銀行の金融政策が有効であるという論文を書いていたそうだ。

 ところが、今の白川総裁は、現時点での日本経済の最大問題である円高に対して、薄ら笑いを浮かべるだけで、肝心の金融政策を使おうとしない。

 では、日銀はどうしたら浜田先生を安心させられるだろうか。それを探るために、為替がどう決まるかを復習しておこう。

 為替レートは二国間の通貨の交換比率である。そこで、学問的には購買力平価と言われるビッグマック指数が出てくる。例えばビッグマックが日本で300円、米国で3ドルなら、1ドル=100円。日本の価格が据え置きで、米国ではインフレによって3・3ドルになれば、1ドル=90円で円高になる。

 また、日本と米国の金利の差によっても、為替は動く。ポイントは見た目の「金利水準」ではなく、相対的な「金利差」だ。日本は現在すでに、十分なまでに低金利であるが、日本の金利が動かずに米国の金利が下がれば、日本のほうが相対的に金利高とみなされて円高に動く。

 いずれにせよ、為替レートには両国の金融政策が大きく関係する。日々の為替は、そのときどきの「事件」で予測不能な動きをするが、金融政策で日本が動かず、米国が金融緩和(金利の下げ)になるとわかっていれば、確実に円高に動く。それが、最近の円高の原因である。簡単な話だ。

 日銀は、「次の首相」が確定する9月の民主党代表選まで金融政策を温存するのだろうか。

 一方の米国は景気懸念から金融緩和をしている。野田佳彦財務相がいくら口先介入しても、瞬間的な「事件」にすぎず、日銀が動かなければ効果は何もない。市場は、白川総裁の動きを見透かして円高になっているのだ。

 このまま日銀が無策を続ければ80円割れの史上最高値更新もありえる。秀才・白川総裁が書くべき解答は「金融緩和」である。 


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