政治政策
これまでの短命首相と何が違うのか?
「ペテン師」、「人気取り」といわれても平気な菅首相の粘り腰を「機会費用」から考える

菅直人首相が驚異的な粘りを見せている〔PHOTO〕gettyimages

 一時は絶体絶命の崖っぷちに追い込まれたかに見えた菅直人首相が驚異的な粘りを見せている。

 鳩山由紀夫前首相を巧みに利用して不信任案を大差で否決し、先日は、早期退陣の確約を取ろうとした執行部数人との会合を退陣日付の確約抜きで乗り切り、野党も丸め込んで今国会会期の70日延長を勝ち取った。

 追求が甘く(原発はもっと追求できたはず)、政治勘の鈍い(不信任案の時期と出し方が下手)谷垣総裁と石原幹事長にリードされた最大野党自民党が軟弱であることのお蔭もあってだが、与党内の一大反対勢力だった小沢一郎氏一派の影響力を削ぐというおまけまで付けながら、目下のところ国会期末の8月下旬まで続投がやむを得ないかというムード作りに成功している。ことこの問題に関してのみだが、たいした度胸と政治手腕だ。

これまでの短命政権と違う「粘り腰」の秘密

 菅首相のいわば土俵際の粘りは、安倍、福田、麻生、鳩山と4代続いた短命政権の主達とは明らかに異質だ。就任時の人気上昇を利用せずに、期限ぎりぎりの総選挙まで粘って予定通り負けた、漢字も政局もよく読まなかった麻生氏は別としても、前任者達は、世論調査による支持率低迷に言い聞かされるかのように、割合あっさりと政権を投げ出した。

 彼らと現在の菅首相とでは何がちがうのだろうか。これまでの政権運営を見ていると、菅氏が彼らと異なる、政治的な力量なり見識なりを持っているという訳ではない。政策は財務省に依存し、震災と原発事故ではリーダーとして適切な行動を取ることが出来なかった。ただ、首相延命に見せる執念だけは、彼らとちがう。

 ある経済学者が筆名で書いた小説仕立ての経済学啓蒙書に「東大を出ると社長になれない」(水指丈夫、講談社Biz刊)という書籍がある。ネタばらしになってしまうが、この書籍のタイトルは、東大を出ると低リスクでまあまあ厚遇の就職先があるため、これを放棄することのコストが大きいので、ベンチャーを起業して社長になるようなことは起こりにくい、という意味だ。経済学用語でいうと「機会費用」がミソである。

 菅首相を前任4人の前・元首相たちと較べると、「首相を辞めることの機会費用」が著しく大きいことが異なるのではないか。

 安倍、福田、麻生、鳩山の各氏は、何れも政治的には名家の生まれだ。彼らは、首相の座から身を引いても十分な経済力があるし、周囲には子分的な政治家も含めて取り巻きらしき人達がいる。料亭だろうがレストランだろうが、首相在任中と同クラスの店で一生好きな時に飲食できようし、その相手にも事欠かないだろう。一方、周囲との関係を考えると、彼らはそれなりに「名を惜しむ」立場であって、ボロボロな姿を長くは晒したくない、という事情があった。

 これに対して、菅氏の場合、清廉かどうかまでは分からないが(震災直前には外国人からの違法献金問題があった)、前任者達ほどの経済的基盤があるわけではないし、人望は不評であってごく少数の友人らしき政治家(北沢防衛相など)がいるようだが、首相辞任後も彼を立ててくれるような子分がいるようには見受けない。

 加えて、菅氏は、政治家一族の出ではないので、不評の下に首相の座を去ることで、周囲が政治的なダメージを受ける心配もない。醜く粘っても、失う名誉の影響が少ない。

 つまり、在任状態と辞任後を差し引きして考えると、菅氏の場合、前任4首相よりも首相を辞任することの「機会費用」が断然大きいのだ。一般論として、能力も、経済力も、人望もなく、地位だけが高い人がいたとすれば、この人が唯一の資源である地位に固執するのは当然だ。

 だから、彼は、仲間から「ペテン師」と呼ばれるのも、震災前の原発推進の立場を反原発&再生エネルギー推進派に素早く切り替えて次の人気取りの手段として利用するのも、全く平気なのだ。

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