企業・経営
新興国で出遅れたトヨタと明暗分ける
グループで1000万台越えを狙う「ゴーン日産」の新戦略

トヨタと日産の勢いの差は歴然としている〔PHOTO〕gettyimages

 日産自動車は27日、新中期経営計画「日産パワー88(エイティエイト)」を発表した。2011年度から16年度までの6年間の計画。ポイントは、新興国を中心に販売を伸ばして世界シェアを5・8%から8%に高め、売上高営業利益率も6・1%から8%に引き上げていく点だ。この計画が実現できれば、日産の世界販売は300万台プラスの720万台程度になると見られ、提携先のルノーと合わせればグループで1000万台を超える。規模でトヨタ自動車に並ぶか追い越すことになりそうだ。

 日産はブラジルで年産20万台規模の新工場を建設するほか、ロシア最大の自動車メーカー「アフワズ」を買収し、日産車を生産する。中国では広州工場を拡張し、12年に120万台体制を整える計画だったが、これをさらに上方修正する。中国ではEV事業も強化する計画で、詳細の事業計画については、来月に北京で発表する予定だ。

 日産のカルロス・ゴーン社長は、会社を成長させるには、欧米依存から脱却し、新興国で販売を伸ばすしかないという基本的な考えの下で今回の中期計画を策定した。ただし、国内販売の100万台は固持する考えだ。

 国際情勢を見れば、ゴーンの戦略は教科書通りと言えよう。ただ、現状の日産の競争力の「源泉」のひとつは国内での開発力であり、海外で稼いだ利益を日本に持ち帰り、その競争力の維持に活用できるかもゴーン氏の力量が問われてくる。

営業利益の大半を金融で稼ぐトヨタ

 以前に本コラムでも指摘したが、トヨタと日産の勢いの差は歴然としている。2011年3月期の連結決算の営業利益額では、トヨタは日産に負けた。09年3月期にリーマンショックの影響でトヨタが赤字に陥った時を除き、通年でトヨタの営業利益が日産を下回ったのは初めてだ。

 詳細を見ると、トヨタの売上高は0・2%増の18兆9936億円、営業利益は約3・2倍の4682億円。これに対して日産の売上高は16・7%増の8兆7730億円、営業利益は72・5%増の5374億円。トヨタの売り上げの半分にも満たない日産に利益額で負けるということは、いかにトヨタが低収益に悩んでいるかが分かる。営業利益率も日産が6・1%なのに対してトヨタは2・5%しかない。

 さらに深刻な問題もある。トヨタはリストラが遅れて過剰設備と過剰人員を抱えているため、もの造りで利益が出ない収益構造になっているのだ。自動車産業は「シルバーストーン曲線」に見られるように、稼働率が高まれば高まるほど大きな収益が期待できるが、その逆に稼働率が落ちると、とてつもない大赤字に陥る。

 トヨタはいま、営業利益の76・5%をローンなどの金融事業で稼いでいる。まだ高い格付けを活用して市場で有利な条件で資金を調達し、それをリースやローンの原資に回している構図だ。ちなみに日産の営業利益に占める金融事業の比率は約18・7%。このデータからは日産の方が本業で稼いでいる、と言える。

 倒産した米ゼネラル・モーターズ(GM)もかつて過剰設備に悩み、本業はさっぱりだったが、収益の9割以上を「虎の子」の金融子会社で稼ぎ、どうにか生き延びていた。トヨタの収益構造は、かつてのGMとそっくりになっている。

 しかし、トヨタはメディアの大スポンサーであり、ファクトであってもトヨタの苦境が目立つような記事は慮って書かないため、国内の多くの人はいまだにトヨタが業界を引っ張っている企業と思っている人が多い。トヨタの経営ははっきり言って、「青息吐息」であり、このままでは自動車産業界の「負け組」に入るかもしれない。雇用維持など震災からの経済復興を、トヨタを中心とする自動車産業に依存しようと考えている政治家や官僚がいるとすれば、それは大きな間違いだ。

 今のトヨタと日産の状況を見ていると面白い。筆者の目には、トヨタがかつての日産になり、日産がかつてのトヨタになっているように映るからだ。「トヨタ化」する日産、「日産化」するトヨタとでも言えようか。

 かつてのトヨタは、巨像が猛スピードで走るイメージで、巨大企業なのに対応が素早く、市場獲得競争で後れを取ることはありえなかった。80年代後半から一気に進んだ円高対策も会社の意思決定の仕組みを変えるような組織改革を断行し、筋肉質な企業体質を構築した。世間の批判を受けても、競争に勝つために企業としてやるべきことをやる企業であり、信賞必罰もしっかりしていた。

 しかし、今のトヨタは新興国市場への対応などは日産に比べて遅れ、言い訳ばかりが目立つ。高学歴の「社内官僚」が増えて、その言い訳を考えることが仕事になっている。そして、「なぜこんな人が役員になったのだろう」と思いたくなるような人が、処世術のみで役員になっているケースが散見される。

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