驚愕の深層レポート 新たなる公安組織< Ⅰ・S >の全貌 後編 政・官情報をメディアに還流させ"事実"を作る諜報機関の「真の目的」 青木理(ジャーナリスト)

2010年08月21日(土) FRIDAY
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「警察庁は極秘の顧客でした。取り扱ったのはもちろん補聴器ではなく、盗聴器です。私が知るだけでも、100セット以上を納入しました」

 前出の警察庁元幹部も、新たにこんな話を聞かせてくれた。

「緒方宅盗聴事件の頃まで、全都道府県警に盗聴担当の工作員が配置されていた。すべて『ウラ』理事官が直接管理し、定期的に東京に集めて盗聴工作の技術指導や士気を高める訓練まで施していた」

 その<チヨダ>は、 '00年頃に再び符牒を一新した。<ゼロ>。それが新たな組織名だ。警備局元幹部らによれば、拙著などによって<チヨダ>の名が知れ渡ってしまったことから新たにつけられたのだという。前出とは別の警察庁元幹部が苦笑いしながら私にこう明かした。

「あんたがいろいろ書いたから、新たに<チヨダ>のキャップになった理事官が変更したんだよ。『存在しない組織だから<ゼロ>だ』なんてもっともらしく解説する公安幹部もいたけれど、本当は『<ゼロ>からの出発』という意味らしい(苦笑)。滑稽な話だけど、最近では、また<チヨダ>と呼ばれることのほうが多くなったみたいだな」

 確かに符牒の意味は滑稽だ。しかし、<チヨダ>にせよ、<ゼロ>にせよ、過去に数々の非合法活動に手を染めた隠微な組織が公安警察内に維持され、今も密やかに蠢いている。いや<チヨダ>ばかりか、新たに<I・S>という新組織まで作り上げ、「オモテ」の理事官の管理下で半ば公然と活動を繰り広げている。

有力政治家のスキャンダル

 特殊技能を持つ係員を抱えているのは、<I・S>も同様だ。警察庁元幹部によれば、首都圏の某県警の<I・S>には、政治家の選挙違反や汚職事件などに絡んで押収したコンピュータを解析する専門スタッフが配されているという。これも情報収集の一環なのだろうが、過去の<チヨダ>の性癖を踏まえれば、コンピュータからどのような情報を抽出しているのか、疑念は膨らむ。

 こうした公安警察組織が本気になれば、相当な深度の情報を手に入れることが可能だろう。狙い定められた人物は恐らく、私生活まで丸裸にされる。その情報がどのように使われるかに関し、かつてこんな話を公安警察幹部から聞かされたことを思い出す。官公庁の幹部人事をめぐって公安警察が暗躍した"華々しきエピソード"について、である。

 公安警察はある時期、<チヨダ>などを動員し、枢要な官公庁内の「共産党シンパ」を一斉調査した。その結果、幾つかの官公庁で公安警察が問題視すべき人物の存在が浮かんだ。特に某中央省庁では、最高幹部に数えられる局長人事が間近に迫り、公安警察が「共産党シンパ」と睨にらむ人物の就任が見込まれていた。

 危機感を持った公安警察と<チヨダ>は、彼らのプライベートまでを徹底的に調べ上げた。中には、女性との不倫関係を摑まれ、密会現場の写真を押さえられた者もいた。情報は非公式ルートで警備局から当該官公庁へと伝達され、問題の人物たちは静かに出世コースから外されていった、という。

 このエピソードを捉えて「共産党シンパ」ならやむを得ない、と一蹴するのは容易い。しかし、<I・S>は違う。与野党を問わぬ広汎な政治情報を、全国の警察ネットワークまで駆使して掻き集めているのだ。

 こうして集められた情報を警察幹部が恣意的に、あるいは私的に使ったらどうなるか。事実、警視庁公安部の中堅幹部はこう語る。

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