驚愕の深層レポート 新たなる公安組織< Ⅰ・S >の全貌 後編
政・官情報をメディアに還流させ"事実"を作る
諜報機関の「真の目的」 青木理(ジャーナリスト)

FORZA STYLE
辻元清美氏が社民党離脱について会見。「社民党崩壊の予兆」と煽る文言が、メディア−警察間を行き来する 〔PHOTO〕眞弓 準

前編 はこちらをご覧ください。

 『日本の公安警察』の著者が辿り着いた、誰も触れたことのない「世論誘導装置」

 諜報機関・公安警察には「オモテ」と「ウラ」の極秘部隊が存在する。オモテの<I・S>が集める政界情報は、一見、他愛ない四方山話だ。が、その情報量でメディアを手玉に取り、"世論"を作っていたとしたら・・・。

[取材・文:青木理(ジャーナリスト)]

 私が知る複数のメディア関係者の元には、警視庁の公安警察官から電子メールが頻繁に送られてくるという。そこに記されているのは、主に永田町で飛び交う政界情報だ。

 最近では辻元清美・衆院議員の社民党離党の情報が"速報"された。参院選の期間中には民主党政権の支持率が数日ごとに伝えられ、当選が確実視されていた現役閣僚である千葉景子法相の敗色が濃くなる様子も、手に取るように分かったという。

 政局の話題ばかりではない。特定の政治家にまつわる"噂話"が記されることもある。メディア関係者の一人が言う。

「裏付けの取れない情報ではありますが、政治家の女性関係や金銭にまつわるものでした」

 別の夕刊紙記者は、他メディアの記者とともに、某県警の公安警察官を囲んでの"懇親会"を定期的に開いている。主に話題となるのは、やはり政界関連の情報だ。この夕刊紙記者の話。

「確度の高い情報から噂話の類に至るまで、とにかく永田町情報に詳しいので参考になるんです。特に(創価)学会や公明党絡みの情報は異常なほど精通していますね。それ以外ではメディア業界内部の動向も良く把握しています。幹部の人事異動や、どの記事を誰が担当したのかなど、私より知っていましたから」

 広汎なメディア記者と頻繁に接触し、政界情報などを提供する「公安警察官」の存在は、私にとって少々驚きだった。かつて公安警察を長く取材した経験に照らせば、幹部はともかく、一線の公安警察官は極めて特殊な分野の情報収集に邁進し、メディアとの接触など忌避するのが一般的だったからだ。

<I・S>にとって重要な関心事の一つが、創価学会、および池田大作名誉会長の動向。彼らの分析・情報がメディアへと伝達される 〔PHOTO〕砥綿芙沙

 奇異に思って彼らの言う「公安警察官」の素性を辿ってみると、いずれも確かに警視庁や某県警で公安部門に所属していた。ただ、従来の公安警察官とは決定的に違う役割を担っていた。政界を中心とした情報を広範囲に収集する<I・S(アイ・エス)>担当だったのである。

警察による非合法活動

 前号で記した通り、<I・S>は日本の公安警察の司令塔というべき警察庁警備局が管理する秘密組織である。公安警察は従来、共産党や新左翼セクト、あるいは右翼や外国諜報機関の動向などに関する情報収集を行ってきたが、<I・S>はまったく性格が異なる。その最大任務は、従来の公安警察の活動からこぼれ落ちてしまった分野の情報―特に地方レベルから国政に至るまで、与野党を問わぬ政界情報を幅広く収集することだ。

 あらためて概略を紹介すれば、警察庁警備局が<I・S>という組織を全国都道府県警の公安部門に整備したのは、 '90年代後半のことだったという。<I・S>とは「インテグレイテッド・サポート(Integrated Support)」、あるいは「インテリジェンス・サポート(Intelligence Support)」の略称とされる。公安警察は内部で怪しげな符牒を好んで用いるが、かつて警察庁警備局の「7係」が所管したことから<07(ゼロナナ)>と呼ばれることもある。

 この組織を管理するのは、警備局の筆頭課である警備企画課だ。同課には課長の下に「理事官」と呼ばれる幹部が二人配され、一人は「オモテ」、もう一人は「ウラ」の担当と位置づけられている。<I・S>を所管するのは「オモテ」の理事官であり、窓口は同課内の「総合情報分析室」とされる。

 こと政治にまつわる情報であれば、地方議会での出来事まで<I・S>が拾うべき「幅広情報」と見なされ、全国の警察網をも駆使して<I・S>に膨大な量の政治関連リポートが集まり、その集積は警察庁警備局長らの手に委ねられる。

 その情報が具体的にどのような使われ方をされているのか、現時点では謎が多い。しかし、公安警察といっても、あくまで警察組織の一部に過ぎない。犯罪捜査と治安維持を本務とすべき警察が、与野党を問わぬ政治情報などを広汎に掻き集めてよいのか。

 まして日本の公安警察は、「ウラ」理事官に率いられた巨大な秘密組織を擁し、過去に数々の非合法活動や謀略工作に手を染めてきた前歴を持つ。その実態を踏まえれば、公安警察が半ば公然と一般政治情報の収集にまで手を付けていることに、薄ら寒さを覚えるはずだ。

 <チヨダ>と呼ばれる公安警察内の秘密組織をご存知だろうか。私はかつて『日本の公安警察』でその実態を詳述した。

 古くは東京・中野の警察大学校内に本拠を置き、公安警察内で<サクラ>という符牒で呼ばれていたが、現在は霞が関の警察庁舎に本拠地を移し、内部の符牒も<チヨダ>にあらためられた。これを指揮してきたのが「ウラ」理事官である。

 この理事官は「ウラ」担当への就任と同時に警察庁の組織図や名簿から氏名が消去される。つまり警備企画課には表向き、理事官は一人しか存在しないことになっている。それほど隠微な「ウラ」理事官率いる<チヨダ>の任務は、全国都道府県警の公安部門による「協力者獲得作業」の一括管理だ。

 「協力者」という名のスパイ獲得作業は、現在も全国で盛んに繰り広げられている。公安警察が監視対象とする左右両翼の団体などに属する人物らをカネや情篭絡し、時には対象者の弱みを徹底調査した上で脅し、数えきれぬほどの人々が協力者に仕立て上げられてきた。中には自らの振る舞いを嫌忌して自殺してしまった若き共産党員もいる。

 しかし、これは<チヨダ>の活動の一端に過ぎない。秘匿撮影や信書の開封、さらには盗聴といった非合法そのものの活動も、<チヨダ>指導の下、全国の公安警察官が密やかに敢行してきた。

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