参院会長「くじ引き当選」で見えてきた自民党「変化の兆し」
安倍晋三が森喜朗に反旗を翻し

 長年、政治取材を続けているが、くじ引きで当選が決まる場面に初めて遭遇した。

 8月11日、国会内の一室で行われた自民党参院議員会長選挙でのことだ。この選挙は、自民党が変わるさきがけと、のちのち位置づけられるようになるかもしれない。

 前外相・中曽根弘文と参院幹事長・谷川秀善が争ったこの選挙の選挙人は同党の参院議員83人(副議長に就任した尾辻秀久を除く)。海外出張のため1人欠席し、2人が白票を投じた。つまり、有効投票数は80票だ。

「谷川秀善君40票、中曽根弘文君40票。両候補の得票数は同数のため、これよりくじ引きを行います」

「おぉっ」「えっ」―。選挙管理委員長・岩城光英が開票結果を告げると、どよめきが起きた。

 くじ引きはめったにないが、公職選挙法では、国政選、地方選を問わず、得票が同数だった場合、くじで当選が決まる規定になっている。自民党総裁選や、民主党の参院議員会長選でも同様の規定がある。

 投開票会場の中央の机に、手際よく、白い筒に入った「くじ棒」が持ち込まれた。1から6までの数字が書かれた棒を引き、少ない数字の棒を引き当てた人が「当選」という説明があった。

 固唾をのんで見守る中、両者が引いた棒の数字は中曽根が「1」、谷川が「5」。いまや、自民党参院議員で注目度ナンバーワンの三原じゅん子らが立ち上がって、ともに戦った同僚議員と握手し、喜びを分かち合った。

 多くの人たちにとってこの選挙結果は意外に映った。というのは、参院自民党は衆院以上に派閥の力が強い。この選挙でも谷川を支援する町村、額賀、古賀の3派所属の参院議員は計55人で、党所属の参院議員の約3分の2を占め、「谷川優位」との見方が多かった。

 私の見立ては違った。1971年7月の参院議長選挙で、野党の全面支持を受けた自民党参院議員・河野謙三が当選した記憶が残り、何が起きるか分からないと思っていた。また、衆院側で元首相・安倍晋三、政調会長・石破茂、元総務相・菅義偉らがひそかに「中曽根支持」で動いていたのを察知していたので、参院だけの力関係では決まらないとも思っていた。

 安倍は、弟の参院議員・岸信夫が中曽根支持を打ち出したことに、元首相・森喜朗が強くいさめると、「谷川さんではダメです。派閥で決められる時代ではない」と反逆した。安倍、石破、菅に共通していたのは、派閥で物事を決める時代は終わった、自民党が変わらなければ政権を奪還できないという危機感だった。

 参院側では、世耕弘成や山本一太、小坂憲次らが激しく動いた。7月の参院選で初当選した議員の多くも中曽根支持に回った。最後はくじという「天の配剤」に頼ったとはいえ、この変化は決して小さくない。

 まず、派閥による談合が奏功しなかったことだ。参院自民党は1970年代から元首相・田中角栄の主導によって急速に派閥化が進み、その流れは竹下派、小渕派、橋本派と引き継がれた。田中派が最大派閥となったのは、参院で他派を大きく上回ったのが原因だった。

 最近では先の参院選を機に引退した青木幹雄と、森との話し合いで主要なことは決まっていた。にもかかわらず、敗北したのは派閥政治が名実ともに終焉したことを意味する。

 派閥が影響力を持っていたことに、驚かれるかもしれない。それが終わったからといって、「いまさら」と思う人もいるだろう。しかし、この議員会長選は自民党の構造が変化したということであり、今後の党運営に大きな影響を与える。9月に行われる党役員人事、総裁・谷垣禎一の後継レースなどで派閥の影響力は急速に弱まっていくだろう。次期総選挙で、森ら実力者クラスの引退につながるかもしれない。

 当選1回組の多くが中曽根支持に回ったことも大きい。3年前に当選した丸山和也、丸川珠代、義家弘介や、今回当選した片山さつき、上野通子、三原ら業界団体出身者ではない人たちが推薦人に名を連ねた。

うかうかできない民主党

 より重要なのは、「衆参ねじれ」の下で参院自民党が、輿石東が率いる民主党と安易な妥協をしなくなるだろうということだ。中曽根は民主党とのパイプが細いが、困るのはむしろ民主党だ。

 自民党は政権を奪還するために、変わらなければならないと必死の形相である。
来年度末に予算関連法案処理で反対し、政権を追い詰め、早期の衆院解散・総選挙に追い込むことを狙っている。そのために、衆院候補者の公募も大規模に行う方針だ。

 自民党が変わったとはまだまだみられていない。しかし、民主党がうかうかしていると、自民党に変化を先取りされるかもしれない。(敬称略)
 

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