W杯を"食い物"にする八百長フィクサー
『黒いワールドカップ』著者が告発する現代サッカーの暗黒面

 2010年7月11日、南アフリカで開催されていた"世界最大の祭典"ワールドカップはスペインの優勝で幕を閉じた。日本代表の"予想外"のベスト16もあり、日本中が熱狂したW杯。しかし国際的な大会ほどその裏で暗躍する人間も増えてくる。

 今回の大会でもそれは例外でなく、ナイジェリア対ギリシャ戦などで八百長の疑いがあったとBBCなどが報じている。サッカーの舞台裏で暗躍し、大金をせしめようという八百長フィクサーたちを追ったノンフィクション『黒いワールドカップ』(原題『THE FIX SOCCER AND ORGANIZED CRIME』)の著者デクラン・ヒル氏は、今大会を通してあらためて現代サッカー界の抱える問題点を指摘した──。

南アフリカ入りしていた八百長フィクサー

 八百長フィクサーが南アに入っていたのは知っている。仕事の都合で私自身はW杯に行けなかったが、フィクサーは間違いなく現地入りしていた。二つの根拠がある。まず彼らギャングは常に大きな国際大会に現れるからだ。U-17W杯、U-20W杯、女子W杯、オリンピックのサッカー競技、そしてW杯だ。

デクラン・ヒル(Declan Hill)〔ジャーナリスト・研究者〕
 組織犯罪や国際問題を中心に調査報道を行なう。最近では、カナダ・マフィアの殺人事件やコソボの報復抗争、イラクの民族浄化についてドキュメ ンタリー作品を製作。
これまでトルコの名誉殺人とフィリピンの記者殺人事件に関するドキュメンタリーで賞を受賞している。
英国外務省チーヴニング奨学金でオックスフォード大学大学院に入学、プロサッカーの八百長に関する研究 で博士号を取得。(著者近影は2,3ページ)

 06年W杯をはじめこれら多くの大会で彼らの姿はあった。

 拙著を読んでもらうとわかるが、これは選手自身、監督やコーチ、審判、国際サッカー連盟(FIFA)の役員、代表チーム関係者、さらに八百長フィクサーたちも認めている。サッカー界の内部にいる人たちにとって常識ともいえる事実だ。

 二つ目の根拠は、私は今もギャング組織の内部に知り合いがいるということ。彼らから直接、(南アで)何をしようとしていたかを聞いている。

 南アで実際に八百長の手配に成功したかどうかは私にはわからないが、彼らが南アに入り、選手たちに接触をしていたことは確かだ。

 なぜ、彼らは選手や関係者に接触することができるのか? それはいまだに多くの代表チームの管理者側が途方もないほど無能であるからだ。

 異常なことのように思えるが、世界最大のスポーツイベントでプレーしているのに、報酬を受け取れるかどうかわからない選手が今もいる。

 たとえばトリニダード・トバゴのある代表選手は、2006年のドイツW杯に出場した報酬の支払いを4年経った今でも待ち続けている。ホンジュラスの選手たちは何ヵ月も給料が支払われていない。ナイジェリア代表にいたっては、大会終了後に大統領が介入してサッカー協会を活動停止にするような動きまであった。

 私はこれらのチームが八百長をしていたと言いたくはないが、大きな国際大会で汚職が存在する理由として、管理者側の無能さが鍵になると強く言いたい。八百長フィクサーは多くの選手が適切に報酬を受け取っていないことを知っていて、文字通りに現金の詰まったかばんを携えて選手に近づく。そしてこう言う。

 「私たちと手を組んだら、悩むべきは金の使い道だろう」。